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ruruha
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きゆう
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📩 相談
高校二年・Mさん
自分がつらいのかどうか、分からなくなることがあります。
嫌なことがあった日は落ち込むし、何もしたくなくなるし、夜になってもずっと考えてしまいます。でも、次の日に普通に学校へ行けたり、友達と笑って話せたりすると、「昨日あんなに落ち込んでいたのは何だったんだろう」と思います。
本当に苦しいなら、ずっと苦しいままなんじゃないかって。
もっと大変な人もいるし、自分は普通に生活できている。なのに、つらいと思っている自分が大げさに感じます。
それで、何かに悩んでも「こんなの大したことない」と考えるようにしています。
でも、そうやって考えていると、何が嫌だったのかも、何に傷ついたのかも、自分で分からなくなってきました。
自分の気持ちなのに、自分で信じられません。
遥「……次の日に笑えたら、昨日のつらさまで嘘になるの?」
相談者「嘘とまでは思わないです。でも、そこまで落ち込む必要なかったんじゃないかって」
蓮司「じゃあ、昨日の自分と今日の自分、どっちが本物なんだよ」
相談者「今日、ですかね。普通にしていられるので」
蓮司「昨日は?」
相談者「……考えすぎてただけ、だと思います」
日下部「昨日、何があったかは関係なく?」
相談者「え?」
日下部「昨日、実際に嫌なことがあったんだろ。それを今日、普通に過ごせたからって、なかったことにはならないだろ」
相談者「でも、いつまでも気にしてるのも変じゃないですか。相手はもう忘れてるかもしれないのに」
遥「相手が忘れてるかどうかと、自分が傷ついたかどうかは、別なんじゃないかな……」
相談者「そうなんですかね」
遥「俺は……そう思う」
言い切ったあと、遥は机の端に視線を落とした。
相談者「でも、自分でも大したことないと思ってるんです。友達に相談するほどでもないし、家で話すほどでもないし。もっと深刻な悩みがある人に比べたら、全然たいしたことないし」
蓮司「その『もっと大変な人』って、どこにいるんだ?」
相談者「え?」
蓮司「いや、いるのはいるだろうけどさ。そいつが自分より大変だったら、おまえのつらさは消えるのか?」
相談者「……消えないと思います」
蓮司「じゃあ、比較して何してんの」
相談者「自分が弱いだけなんじゃないかって、思うんです」
日下部「つらいと感じることと、弱いかどうかを決めることを、勝手にくっつけてるんだな」
相談者「でも、みんな普通にやってることですよ。嫌なことがあっても学校に来て、勉強して、友達と話して。自分だけ、いつまでも引きずってる気がします」
遥「……普通にできてるように見える人も、帰ってからどうなってるかは分からないよ」
相談者「遥くんも、そういうことありますか?」
突然自分に向けられた質問に、遥の指先が止まった。
遥「……あるよ」
相談者「普通にしてても?」
遥「うん」
相談者「じゃあ、普通にしてるからって、平気とは限らないんですね」
遥「……限らないと思う」
相談者「でも、自分で平気だって思おうとしてると、本当に平気だったような気もしてくるんです。何が嫌だったのか考えても、別にそこまでのことじゃなかったって思えてきて。そうすると、また同じことがあっても何も言えなくなるんです」
日下部「自分の気持ちを、後から自分で却下してるんだろ」
相談者「……はい」
日下部「嫌だった。でも、嫌だと思うほどのことじゃない。傷ついた。でも、傷つく自分がおかしい。そうやって毎回ひっくり返してたら、最後には何も残らなくなる」
相談者「もう、何を感じても自分が間違ってる気がします」
蓮司「自分の気持ちに、正解か不正解かをつけすぎなんじゃねえの」
相談者「でも、自分の感じ方が間違ってたら、相手を悪く思ってしまうかもしれないじゃないですか」
蓮司「それは別の話だろ。嫌だったって感じるのと、相手が絶対に悪いって決めつけるのは違う。嫌だったことは認めたうえで、相手がどういうつもりだったのか考えればいい」
相談者「……自分が嫌だったって認めても、相手を責めなくていいんですか?」
日下部「当たり前だろ。自分の気持ちを認めることは、相手に判決を出すことじゃない」
相談者は膝の上で組んでいた手を、ゆっくりほどいた。
相談者「ずっと、自分がつらいって認めたら、誰かのせいにすることになると思ってました」
遥「……自分が苦しかったってことまで、誰かに許可してもらわなくていいんじゃないかな」
相談者「自分でも、まだ大したことないって思ってしまいます」
遥「うん。すぐには変わらないと思う」
相談者「それでもいいんですか?」
遥「……大したことないって思ってしまう自分まで、間違いにしなくていいと思う。そう思わないと、やってこられなかったのかもしれないし」
相談者は、少しだけ顔を上げた。
相談者「自分の気持ちを信じられるようになるまで、待っててもいいんですかね」
日下部「信じられるようになるまで、何もするなってことじゃない。信じきれなくても、嫌だったことをなかったことにしない。それくらいなら、今からできるだろ」
蓮司「自分の気持ちに自信がない日まで、自分を疑う材料にしなくていいんじゃね。分からないなら、分からないまま置いとけばいい」
相談者「……分からないままでも?」
蓮司「何でも今日中に結論出さなきゃいけない決まりなんてねえだろ」
相談者「……少し、楽になりました」
相談者は立ち上がると、ドアの前で一度だけ振り返った。
相談者「今日、ここで話したことも、帰ったらまた大したことなかったって思うかもしれません」
遥「……そのときは、今日ここで話したことまで、なかったことにしないで」
相談者「はい」
扉が閉まったあと、日下部が机の上の相談用紙を揃えた。
日下部「自分の気持ちを信じられない、か」
蓮司「自分で自分に嘘ついてるっていうより、信じたあとに困るのが嫌なんだろうな」
日下部「信じたら、認めなきゃいけなくなることもあるからな」
遥は何も言わなかった。
自分の苦しさを、自分で信じられない。
その言葉が、頭の中に残っていた。
🗝 三人からのことば
遥
自分が何を感じたのか、すぐに分からなくてもいいと思う。あとから平気になったからって、そのときの自分まで間違いにしなくていい。つらかった自分を、今の自分が否定しなくてもいいんじゃないかな。
蓮司
自分の気持ちを認めることと、誰かを悪者にすることは違う。嫌だったなら嫌だった。それだけでいい。理由も正しさも、全部説明できなきゃ認めちゃいけないわけじゃないだろ。
日下部
分からないなら、分からないままでいい。ただ、分からないことを理由に、自分の感じたことを全部なかったことにするな。判断を保留するのと、自分を否定するのは違う。
放課後、相談室の戸締まりを終えた遥は、廊下を歩きながら自分の手を見た。
さっき、相談者に「嫌だったことを、なかったことにしないで」と言った。
自分なら、どうするだろう。
嫌だったことを思い出しても、たいしたことじゃないと考える。傷ついたと感じても、自分の受け取り方がおかしいのだと考える。何も感じないふりができれば、それで済んだことにする。
そうやって過ごしてきた時間は長い。
今さら、ひとつひとつの気持ちを拾い直すなんて、できる気がしなかった。
廊下の向こうから、笑い声が聞こえた。
遥は反射的に肩をすくめかけて、足を止めた。
自分に向けられた声ではない。誰かが自分を笑っているわけでもない。
それなのに、身体にはまだ、身構える理由が残っている。
いつものように、気のせいだと片づけようとした。
けれど、その言葉を口にする前に、遥は自分の肩に力が入っていたことだけを認めた。
怖かったのかもしれない。
そう思った直後、こんなことで怖がるなんて、と別の声が頭の中に浮かんだ。
遥は目を伏せた。
結局、どちらが本当なのかは分からなかった。
それでも今日は、分からないまま歩き出した。
コメント
7件
私も相談していいですか?
うん、読んだよ……。 「次の日に笑えたら、昨日のつらさまで嘘になるの?」って遥くんの言葉、胸に刺さったな。自分の気持ちを後から否定しちゃう感覚、すごく分かる。でも蓮司くんの「比較して何してんの」も、日下部さんの「自分の気持ちを認めることは相手に判決を出すことじゃない」も、どれも優しくて、ちゃんとMさんの心に届いてた気がする。 最後の遥くんが「怖かったのかもしれない」って認める場面も、無理に答えを出さなくていいんだって思えて、じんわり温かくなった。この話、静かだけどすごく深かったよ。ruruhaさん、ありがとう🤍