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蓮司の相談室3

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蓮司の相談室3

23 - 第23話 普通に接されると疑う

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2026年03月06日

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ドアを開けて入ってきた相談者は、椅子に座ってすぐ言った。


「普通にされると疑う」


蓮司はペンを回している。


「誰に」

「誰でも」

「優しくされると?」

「いや。優しいとかじゃない。普通」


相談者は机の角を指でなぞる。


「普通に話される。普通に笑う。普通に席座る」

「それで?」

「“なんか裏あるだろ”って思う」


蓮司は頷く。


「どこで落とすんだろうな」

「そう」

「いつ裏返るんだろうな」

「そう」


少し沈黙。


「前にあった?」

「山ほど」


相談者は笑うが、目は笑っていない。


「最初は普通なんだよ。普通に話す。普通に一緒にいる」

「で?」

「途中からいじられる。からかわれる。笑われる。気付いたら役割できてる」

「役割」

「“こいつはこういうやつ”って」


蓮司は机に肘をつく。


「最初からそうじゃない?」

「違う」

「最初は普通」

「で、途中で変わる」

「だから普通が信用できない」


相談者は頷く。


「普通ってさ」

「うん」

「前兆に見える」


静かな声だった。


「嵐の前の」


蓮司は少しだけ息を吐く。


「人間関係を天気で見てるな」

「また天気かよ」

「似てる」


相談者は苦笑する。


「でもさ」

「何」

「普通が一番怖い」

「なんで」

「優しいならまだ分かる。狙いがある。好かれてるとか」

「普通は?」

「読めない」


机を軽く叩く。


「読めないのが一番怖い」


沈黙。


「裏があるかもしれない」

「あるかもしれない」

「笑われるかもしれない」

「あるかもしれない」

「結局さ」


相談者は天井を見る。


「信じると損する確率の方が高かった」


蓮司は否定しない。


「学習だな」

「だろ」

「ただ問題がある」

「何」

「その学習、期限切れてる可能性」


相談者の視線が戻る。


「環境変わってるのに、同じ警戒レベルで動いてる」

「変わってる保証ある?」

「ない」

「じゃあ疑う方が安全」

「安全だな」


蓮司は頷く。


「でもコストが高い」

「コスト?」

「全部疑うと、人間関係が全部テストになる」


相談者は黙る。


「普通の会話でも、“裏ある?”“罠?”ってチェックする」

「してる」

「疲れるだろ」

「めちゃくちゃ」


少し沈黙。


「疑うな、とは言わない」


蓮司が言う。


「でも一個だけ変えろ」

「何」

「“裏があるかもしれない”じゃなくて」

「?」

「“裏が出るまで普通扱い”にしろ」


相談者は考える。


「先に疑わない?」

「先に判決出さない」

「でも騙されたら」

「一回騙される」


蓮司は淡々と言う。


「その代わり、全部疑って孤立するよりマシな場合がある」


相談者は苦く笑う。


「賭けじゃん」

「人間関係は全部そうだ」


沈黙。


「普通に接してくるやつがいる」

「ああ」

「信用していい?」

「まだするな」

「は?」

「観察しろ」

「観察」

「普通が続くかどうか」


相談者は小さく頷く。


「裏が出たら?」

「距離取れ」

「普通が続いたら?」

「そのとき初めて信用考えろ」


長い沈黙。


「俺さ」

「何」

「普通を受け取るの、めちゃくちゃ下手」

「練習しろ」

「難しい」

「知ってる」


立ち上がる。


「普通ってさ」

「何」

「一番地味な好意の形だったりする」


相談者は少し止まる。


「……そうなのか」

「気付かないやつ多い」


ドアの前で振り返る。


「もし裏なかったら?」

「そのときは」


蓮司は肩をすくめた。


「世界が少しマシだったってだけだ」


ドアが閉まる。


裏切られた経験は、

普通を疑わせる。

でも全部疑うと、

普通の好意まで切り捨てることになる。

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