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キッチンの引き出しが、どうにも開かなくなった。
真白は両手で取っ手を引き、少しだけ力を入れる。
「……動かない」
「噛んでるだけじゃない?」
背後から、アレクシスの声。
「そう思って、三回目」
「じゃあ俺が」
アレクシスが代わり、少し角度を変えて引く。
ごと、という音と一緒に、急に開いた。
「……開いた」
「急に素直になるの、ずるい」
中には、使いかけの輪ゴム、メモ帳、正体不明のケーブル。
どれも「とりあえず」で入れたものばかり。
「これ、何」
真白がケーブルを持ち上げる。
「知らない」
「二人とも?」
「二人とも」
二人で顔を見合わせ、同時に小さく笑う。
「整理する?」
「今?」
「今しかやらない気がする」
床に座り、引き出しの中身を全部出す。
思った以上に量がある。
「これ、俺の」
「それは俺」
「これは……?」
「保留」
仕分けの基準は、だいぶ適当だった。
「捨てる?」
「一旦、戻す」
「整理の意味」
「共有だから」
妙な理屈だったが、二人とも否定しなかった。
片付けが終わるころには、引き出しは軽くなっていた。
開け閉めも、さっきより滑らかだ。
「気持ちいい」
「達成感、低めだけどな」
「でも、生活感ある」
アレクシスは引き出しを閉め、手を払う。
「これ、二人で使ってる感じするな」
「今さら?」
「再確認」
真白は頷く。
「……悪くない」
何も起きていない午後だった。
でも、共有の引き出しひとつで、
二人で暮らしている実感は、少しだけ増えた。