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洗濯機が止まった音で、真白は顔を上げた。
タイマーを見るまでもない。もう覚えている。
「終わったみたい」
「ありがとう。干そうか」
アレクシスはそう言って立ち上がり、洗面所へ向かう。
二人分の洗濯物は、見慣れた量だった。
洗濯機を開けて、真白が一枚取り出す。
「……これ、俺の」
「そうだね」
「そっちは?」
「俺の」
淡々と仕分けが進む。
色物、白物、部屋着、仕事用。
「これさ」
真白が、少しだけ言い淀む。
「何?」
「一緒に洗うの、もう普通になったね」
アレクシスは一瞬考えてから、頷く。
「最初は、分けてた」
「だよね。
勝手に混ざるの、ちょっと抵抗あった」
「今は?」
「……楽」
ベランダに出ると、空気がひんやりしていた。
洗濯物を一枚ずつ、ハンガーにかけていく。
真白がシャツを干そうとして、袖を引っかける。
「あ」
「貸して」
アレクシスが近づき、袖を直す。
指先が、ほんの一瞬触れる。
「……ありがとう」
「うん」
それだけで、また距離が戻る。
風が吹き、洗濯物が揺れる。
二人分の服が、同じリズムで動く。
「さ」
真白が言う。
「これ、どこまでが“共有”なんだろ」
「洗濯?」
「生活」
アレクシスは洗濯ばさみを留めながら答える。
「決めなくていいんじゃないか」
「境目、曖昧だけど」
「曖昧なほうが、続くこともある」
真白は少し考えて、笑う。
「それ、仕事でも言いそう」
「使える?」
「たぶん」
最後の一枚を干し終える。
ベランダに並ぶ洗濯物は、特別じゃない。
でも、混ざっていることが、もう違和感じゃなかった。
「乾いたら、俺が取り込む」
「じゃあ、畳むのは俺で」
「分担、自然だね」
「自然になった」
部屋に戻ると、洗濯機の音が完全に消えていた。
生活は、こうやって少しずつ揃っていく。
音も、手順も、距離も。