テラーノベル
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人は多い。廊下でも教室でもない。
「通り道」だ。
誰かが必ず通る場所。
遥は、
立たされているわけじゃない。
「立っていることを許されているだけ」。
誰かが言う。
「なあ、こいつさ。
被害者ぶるの、上手くなったよな」
笑いが起きる。
「昔はもっと分かりやすく泣いてたのに」
「今は黙るもんな。あれズルくね?」
「同情狙い?」
別の声。
「でもさ、可哀想って思ったこと一回もない」
「だってさ、見ろよ。
自分からここに立ってんじゃん」
遥の視線が落ちる。
(……違う)
(立ってるんじゃない)
(動く理由が、なくなっただけだ)
「なあ遥」
名前を呼ばれる。
呼ばれる=話を聞かされる合図。
「お前ってさ、何が嫌なの?」
「言ってみ?」
「ちゃんと聞いてやるから」
優しさの形をした罠。
遥は口を開く。
声が出る前に、被せられる。
「どうせさ」
「“全部”だろ?」
「世界が嫌い、人生が嫌い、俺らが嫌い」
誰かが肩をすくめる。
「でもさ、それって」
「お前が普通じゃないだけじゃん」
笑い。
「普通の奴は、ここまでされない」
「普通の奴は、こんな顔しない」
「普通の奴は、もっと抵抗する」
(抵抗……?)
(してないわけじゃない)
(でも——)
「抵抗したらしたで」
「ほら見ろって言われるだけだしな」
「攻撃的だって」
全員がうなずく。
「だからさ」
「結論な?」
間を置く。
「お前が悪い以外、なくね?」
その言葉で、
場が完成する。
遥の中で、
何かが一段深く沈む。
(……そうか)
(俺が普通じゃないから)
(説明が必要になるんだ)
誰かが続ける。
「てかさ。
存在してるだけで空気悪くなるの、才能だと思う」
「分かる」
「喋らなくても気持ち悪い」
「目、合わせんな」
遥は、
自分の視線が
他人に迷惑をかける“物質”みたいに感じ始める。
(見るな)
(考えるな)
(感じるな)
「ほら」
「またその顔」
「反省してる顔のつもり?」
嘲笑。
「違うだろ」
「それ、自己陶酔」
「“可哀想な自分”に酔ってるだけ」
(……違う)
(酔ってない)
(ただ——)
言葉が、
自己嫌悪に翻訳される。
(俺が考えると)
(全部、言い訳になる)
最後に、誰かが言う。
「なあ」
「お前さ」
「生きてて楽しい?」
沈黙。
答えなくていい。
答えたら、
その答え自体が罪になる。
遥は思う。
(楽しいかどうかじゃない)
(ただ——)
(俺がここにいること自体が)
(間違いなんだ)
その結論だけが、
静かに、確実に、
遥の中に定着していく。
#読み切り
ruruha
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ゆうまる
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コメント
1件
うわあ……読んでいて胸がぎゅっとなりました。廊下でも教室でもない「通り道」という設定、あれは逃げ場のなさの象徴ですよね。特に「立っていることを許されているだけ」という一文に遥の苦しさが詰まっていて、読んでいて息が苦しくなりました。「生きてて楽しい?」の問いかけが刺さる……答えないことを選ぶしかない、その無力感がリアルで切ないです。ruruhaさんの言葉の選び方、本当に繊細で好きです。