テラーノベル
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最初に空気が変わったのは、誰かが少し困った顔をしたときだった。
「ねえ、遥さ」
声は柔らかい。
責めるトーンじゃない。
「最近、元気ないよね」
周りが一斉にうなずく。
それだけで、“事実”が成立する。
「無理してない?」
「大丈夫って言われても、正直ちょっと心配でさ」
遥は一瞬、言葉を探す。
「……別に、普通だけど」
その返答に、すぐ被せられる。
「ほら、そうやってさ」
「“普通”って言うところが、もう無理してる感じ」
笑いはない。
だから余計に逃げられない。
「責めてるわけじゃないよ」
「むしろ逆。助けたいだけ」
助けたい、という言葉が
免罪符になる。
「クラスとしてもさ」
「雰囲気悪くなるの、正直つらいんだよね」
遥は目を上げる。
「……俺が?」
「うん」
即答。
「遥がいると、みんな気遣うから」
「変な緊張感出るっていうか」
別の誰かが、申し訳なさそうに続ける。
「それってさ、遥のせいっていうより」
「性格の問題だと思うんだ」
(性格)
「暗いとかじゃなくて」
「説明しづらいんだけど」
「“一緒にいて疲れるタイプ”?」
善意の言葉は、
刃が見えない。
遥は言う。
「……じゃあ、話さない方がいい?」
その瞬間、空気が少し和らぐ。
「ほら、そうやって極端に取る」
「誰も黙れなんて言ってないよ」
「たださ」
「もうちょっと、普通にしてほしいだけ」
普通、という言葉が
基準として突き刺さる。
「無理なら無理って言えばいいし」
「抱え込まれると、周りが困るんだよ」
遥は、喉が詰まる。
「……じゃあ、どうすればいい?」
沈黙。
誰も答えない。
代わりに出てくるのは、
「考えてほしいんだよね」
「自分がどう見えてるか」
「自覚って、大事だから」
自覚。
つまり——
気づけ。お前はズレている。
遥は小さく言う。
「……ごめん」
その一言で、全員が安心する。
「ほら、分かってるなら大丈夫」
「素直なのはいいとこだよ」
褒め言葉の形をした、首輪。
(分かってる……?)
(何を?)
遥の中で、
言葉が整理されなくなっていく。
(説明しようとすると)
(また“空気を悪くする”)
(黙ると)
(“感じ悪い”って言われる)
結論は一つしかない。
(俺が話すこと自体が)
(もう、善意への迷惑なんだ)
誰かが最後に言う。
「これ、遥のためだからね」
その瞬間、
遥は“反論する権利”を失う。
善意の名の下で。
コメント
1件
第41話、めっちゃ胸に刺さった……。「善意の形をした首輪」って表現、核心を突いててゾッとしたわ。クラスのみんなが「遥のため」って言いながら、実は遙を枠にはめてる感じが生々しくて。遙の「話すことも善意への迷惑」って気づき、読んでるこっちも息苦しくなった。こういう“見えない圧”の描写、本当に上手いなあ。続きが気になる!