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#一次創作
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#すれ違い
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榎本くもり
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ドアが開く。
相談者は椅子に座ると、少し笑って言った。
「終わったあとなんだよな」
蓮司は向かいに座る。
「何が」
「テストでも、部活でも、バイトでも」
少し間が空く。
「終わった瞬間に、『もっとできたかも』って思う」
蓮司は腕を組んだ。
「結果が悪かった?」
「いや、別に」
「怒られた?」
「それもない」
「じゃあ何が引っかかる」
相談者は言葉を探した。
「何か、満足できない」
静かな時間が流れる。
「褒められても?」
「『ありがとう』って言うけど、頭の中では『いや、あそこ駄目だったし』って思ってる」
蓮司は少し考えた。
「お前、結果を見てないな」
相談者は首を傾げる。
「見てるだろ」
「見てるのは減点だ」
「減点?」
「終わったあとに探してるのは、できたことじゃない」
「……できなかったこと」
「そう」
少し沈黙が流れる。
「でも、その方が成長できるじゃん」
蓮司は頷く。
「間違ってない」
相談者は少し安心した顔になる。
「ただな」
蓮司は続けた。
「減点しか見ない採点って、途中で嫌になる」
相談者は黙った。
「例えば」
「百点中九十点だったとする」
「うん」
「お前は残りの十点を見る」
「見る」
「九十点は?」
「……見ない」
「だから毎回負けた気分になる」
相談者は苦笑した。
「確かに」
間。
「でも、できたことなんて普通じゃない?」
蓮司は少し笑う。
「その『普通』が曲者なんだ」
「どういうこと」
「できるようになった瞬間に、それを評価しなくなる」
相談者は考え込む。
「前はできなかったことでも?」
「そう。人間、慣れるのがうまい。だから、できることは空気になる」
「うん」
「できないことだけ目立つ」
相談者は静かに息を吐いた。
「何か損な仕組みだな」
「放っておくとな」
少し間が空く。
「あとさ」
蓮司は相談者を見る。
「『もっとできた』って、本当に思ってるか」
「え?」
「それとも、『もっとできたことにしとけば、失敗しても言い訳になる』って思ってないか」
相談者は動きを止めた。
「……どういうこと」
「『本気じゃなかったから』って言えば、結果が悪くても傷つきにくい」
静かな時間が流れる。
相談者は机を見つめた。
「あるかもしれない」
「『もっとできた』は便利な言葉だ」
「便利?」
「成功したら『やっぱりできた』で済む」
「うん」
「失敗しても『本気じゃなかった』で済む」
相談者は何も言えなかった。
「だから安心する」
「……逃げてるのかな」
蓮司は首を横に振る。
「逃げたいんじゃない」
「じゃあ何」
「傷つきたくない」
相談者はゆっくり息を吐いた。
「そっちか」
「結果より可能性を残した方が、少し楽だからな」
少し静かになる。
「じゃあ、どうしたらいい」
蓮司は少し考えた。
「終わったら二つ書く」
「二つ?」
「できなかったことを一つ」
「うん」
「できたことも一つ」
相談者は少し笑う。
「一個ずつか」
「片方だけ見るから、景色が歪む」
静かな時間が流れる。
相談者は立ち上がった。
ドアの前で振り返る。
「『もっとできた』ばっかり考えてた」
「できたことも、お前がやったことだ」
相談者は小さく頷いた。
「少し見方を変えてみる」
「そのくらいで十分だ」
ドアが閉まる。
「もっとできたかもしれない」と思うことは、向上心にもなる。
でも、それだけしか見えなくなると、頑張った自分まで見失ってしまう。
次へ進むためにも、できなかったことだけではなく、できたことにも目を向けていいのかもしれない。
コメント
1件
第26話、読み終えました……「もっとできたかも」って、心当たりがありすぎて苦しくなりました。自分を守るための「本気じゃなかった」の理論、すごく腑に落ちました。ああ、そういうことか、って。蓮司さんの「減点しか見てない」という指摘も、そして最後の「一個ずつでいい」という優しさもじんわり染みました。できたことをちゃんと見る、その一言がすごく温かかったです。頑張った自分を否定しないでいよう、と思えました。