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「なっ……!?」
瞳を大きく見開き、ヴァロフェスは絶句する。
血の滲んだ唇が微かに震えた。
「た、戦いの途中、余所見をするのは素人のすることだぞ……」
蒼白になった顔を向け、悲しげに微笑んだのはミーシャだった。
大蠍の鋏に捕えられた両脇は肉が抉れ、ボタボタと鮮血が滴り落ちていた。
「貴方は生きてここを出なさい、ヴァロフェス」
「…………」
「この怪物を滅ぼして。貴方にはその力があるのでしょう?」
「……しかし、それでは貴女達が」
「私達は消えないわ」
そう言って、もう一度、微笑みを浮かべるミーシャ。
スウーッ、とその全身から生気が、色彩が失われてゆく。
「私達は、貴女に解放してもらうの……」
それが最後の言葉だった。
次の瞬間――、《青い風》の族長ミーシャの姿は、泡のように弾け、消滅していた。
「い、忌々しい小娘がぁッ!!」
喚き声をあげる大蠍。
「どこまでも、このワシを馬鹿にしよって!! こうなったら――」
しかし、その言葉は続かなかった。
正確に言えば――、雷鳴のような轟音にかき消されていた。
同時に老人の下顎、そして大蠍の半身が、血飛沫をあげ、肉片を宙に舞い散らせて砕け散る。
「あべっ!? あべべべべべべべべっ!?」
「ミーシャ達が惨めだと?」
悲鳴にならない悲鳴をあげ、のたうち回る大蠍。
ゆっくりと立ち上がりながら、低く押し殺した声でヴァロフェスは言った。
「今の貴様よりもか? なあ、《叫ぶ者》よ」
血塗れになった老人の顔が恐怖に凍りつく。
再び固く握りしめられたヴァロフェスの拳は、漆黒の炎に包みこまれていた。
「他人の苦痛が好物だと言ったな、貴様」
るるくらげ
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「ひっ、や、やめッ……」
「私もそうだ」
拳を大きく振りかざしたヴァロフェスの耳に聞こえたのは、子ども達のすすり泣き。
子ども達は唯一の庇護者を、ミーシャの名を呼び続けていた。
それを振り切るかのように、仮面の口元に歪な半月の微笑みが浮かぶ。