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相談者は椅子に座ってから、少し時間を置いて言った。
「悪口ってさ」
蓮司は黙って待つ。
「乗らないと浮くよな」
静かな声だった。
「グループ?」
「うん」
相談者は机の端を指で押している。
「最初は普通の話なんだよ」
「うん」
「でも途中から」
「うん」
「“あいつさ”ってなる」
蓮司は頷く。
「そこから早い」
「何が」
「空気」
相談者は苦笑する。
「みんなちょっとずつ乗る」
「あるな」
「最初は軽い」
「うん」
「“ちょっと変だよね”とか」
「うん」
「“分かる”とか」
少し間。
「でも」
「うん」
「段々強くなる」
机を見る。
「性格の話。見た目。家のこと」
相談者は言葉を切る。
「止まらない」
沈黙。
「で」
蓮司が言う。
「お前は?」
「聞いてる」
「乗らない?」
「乗らない」
「なんで」
相談者は少し笑う。
「怖いから」
「何が」
「その場では盛り上がる」
「うん」
「でも」
「うん」
「次のターゲットってさ」
少し沈黙。
「大体、そこにいない人」
「そうだな」
「つまり」
「うん」
「いつでも入れ替わる」
蓮司は頷く。
「だから俺」
「うん」
「黙る」
机を見つめる。
「でもさ」
「うん」
「黙ると」
「うん」
「空気変わる」
相談者は小さく笑う。
「“あれ?”ってなる」
「なるだろうな」
「で」
「うん」
「“どう思う?”って振られる」
沈黙。
「答える?」
「曖昧」
「例えば」
「“そうなんだ”とか」
「乗らない」
「うん」
相談者はため息をつく。
「そのあと」
「うん」
「ちょっと距離できる」
静かな声だった。
「話題から外れる」
「うん」
「笑いにも入らない」
「うん」
「一瞬だけ」
相談者は言う。
「グループの外」
#読み切り
沈黙。
「でも」
蓮司が言う。
「それでいいと思ってる?」
相談者は考える。
少し長い。
「……半分」
「半分?」
「楽」
「どう楽」
「悪口言わなくて済む」
「うん」
「でも」
「うん」
「孤立に近づく感じする」
蓮司は少し背もたれに寄りかかる。
「悪口ってな」
「うん」
「一番簡単な連帯なんだ」
相談者は顔を上げる。
「連帯?」
「共通の敵」
「……ああ」
「それがあると」
蓮司は続ける。
「一瞬でグループが固まる」
相談者は頷く。
「だから盛り上がる」
「うん」
「笑いも起きる」
「うん」
「でも」
蓮司は少し間を置く。
「長く続く関係じゃない」
相談者は黙る。
「敵がいないと成立しないから」
沈黙。
「じゃあ」
相談者が言う。
「俺が間違ってるわけじゃない?」
「違う」
「でも浮く」
「浮く」
相談者は苦笑する。
「どっちだよ」
「両方」
少し静かになる。
「悪口に乗らない人は」
蓮司が言う。
「短期的には浮く」
「うん」
「でも」
「うん」
「長期的には信頼される」
相談者は首をかしげる。
「誰に」
「見てるやつに」
「見てる?」
「グループの中に」
蓮司は言う。
「同じこと思ってるやつがいる」
相談者は黙る。
「全員が悪口好きなわけじゃない」
「……」
「でも」
「うん」
「誰かが止めないと」
「うん」
「流れる」
相談者は机を見る。
「俺」
「うん」
「止めてるわけじゃない」
「うん」
「ただ乗らないだけ」
「それでも違う」
沈黙。
「悪口って」
蓮司は続ける。
「乗るか、止めるか、黙るか」
「うん」
「その三択」
「うん」
「黙るやつは」
少し間。
「少ない」
相談者は小さく笑う。
「損な役だな」
「そうでもない」
蓮司は言う。
「悪口で繋がる関係って」
「うん」
「誰かがいなくなると崩れる」
相談者は考える。
「……確かに」
「逆に」
蓮司は続ける。
「悪口なくても話せるやつ」
「うん」
「そっちが残る」
少し沈黙。
相談者は立ち上がる。
「じゃあ」
「うん」
「浮いてもいいか」
ドアの前で振り返る。
「少しは」
蓮司は頷く。
悪口は、
グループを一瞬で固める。
でもその結束は、
次の標的が決まるまでの
仮のものだったりする。