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放課後。
空き教室。
日下部は机の上に広げたプリントを見つめていた。
「終わった?」
ドアを開けた相談者が聞く。
「気持ちは終わってる」
「プリントは?」
「生きてる」
相談者が少し笑う。
向かいに座った。
「今日は?」
相談者はすぐには話さない。
窓の外を見る。
少ししてから、小さく口を開いた。
「俺、性格悪いかもしれないです」
日下部は目を向ける。
「急だな」
「友達が褒められてたり、楽しそうだったり、恋人できたり、成績上がったり。本当は喜んであげなきゃいけないのに、素直に喜べないんです。嫌だなって思うし、羨ましいし、なんで俺じゃないんだろうって。そんなこと考える自分が嫌いです」
教室が静かになる。
「嫉妬か」
「はい」
「したことない人っていると思う?」
相談者は止まる。
「……いない?」
「たぶん」
日下部は頷く。
「みんな隠すのが上手いだけ」
相談者は黙る。
「でも、嫉妬するって最低じゃないですか」
日下部は少し考える。
「最低なのは、嫉妬したことか?」
相談者は顔を上げる。
「え」
「嫉妬した相手を傷つけた?」
「いや」
「悪口言った?」
「言ってないです」
「邪魔した?」
「してないです」
「じゃあ」
短く言う。
「感情があるだけ」
相談者は黙る。
「でも苦しいです」
「そりゃな」
日下部は言う。
「嫉妬って、だいたい欲しいものの近くにある」
相談者は首を傾げる。
「近く?」
「友達が多い人に嫉妬するなら、人間関係欲しい。成績いいやつに嫉妬するなら、認められたい。恋人いるやつに嫉妬するなら、大事にされたい」
短く言う。
「何も欲しくない相手には、そんなに嫉妬しない」
相談者は考える。
「確かに。俺、本当は欲しいんですね」
「たぶんな」
窓の外から運動部の声が聞こえる。
「あと」
日下部は言う。
「嫉妬してる時って、相手の幸せしか見えなくなる。裏側とか、悩みとか、見えなくなる。ハイライトだけ見て、負けたって思う」
相談者は苦笑した。
「それ、SNSでよくやります」
「やる」
日下部も頷く。
「人間だから」
しばらく静かな時間が流れる。
「嫉妬しない人になりたいです」
「無理」
即答だった。
相談者は笑う。
「早いですね」
「人間やめるなら別」
「やめません」
「なら」
少し間。
「嫉妬する自分を嫌うのやめた方が早い」
相談者は止まる。
「え」
「嫉妬して、さらに自分を嫌って」
短く言う。
「二回傷ついてる。忙しい」
相談者は吹き出した。
「確かに忙しいです」
立ち上がる。
「俺、悪い人間になったんだと思ってました」
「欲しいものがあるだけかもな」
日下部は言う。
「そこまでは罪じゃない」
ドアが閉まる。
嫉妬は、汚い感情に見える。
でも、
「自分もそうなりたかった」
という気持ちが形を変えただけなのかもしれない。
コメント
1件
うわあ、この回、すごく沁みました……。嫉妬って「汚い感情」だと思いがちだけど、日下部先生の「欲しいものの近くにある」「二回傷ついてる」って言葉に、すごく救われる気持ちになりました。相談者が「俺、性格悪い」って言うシーン、すごくリアルで、自分もそう思ったことあるなって。でも「感情があるだけ」って言ってもらえるだけで、こんなに楽になるんだなあ。ruruhaさんの描く人間の弱さと優しさ、本当に好きです。次も楽しみにしてます🌷