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その日、沙夜は芙美子から、司の母についての詳しい話を聞くことができた。
「司の母親はね、久美子という名前で、司の父親とは幼馴染だったの。小さい頃から本当にお転婆でね……普通、女の子って大きくなったら“お花屋さん”とか“ケーキ屋さん”になりたいって言うでしょう? でもあの子は、“大きくなったらタクシーの運転手になる”って言っていたのよ。とても面白い子だったわ」
芙美子は当時を懐かしむように目を細めた。
司の母・久美子は、幼いころから芙美子とも親しく行き来していたらしい。
「だから、夢の中でタクシーに乗っていたんですね」
「ふふっ、きっとそうね……」
沙夜はその話を聞きながら、あの世界がただの夢ではなく、何かしらの真実を映していたのかもしれないと感じ始めていた。
では、久美子が言っていた“年頃の娘”とは誰なのだろう?
不思議に思っていると、芙美子が続けた。
「その“年頃の娘”っていうのは、司の前に流産した子のことかもしれないわ……女の子だったから……。もし生きていたら、司のお姉さんになっていたのよ」
「え……?」
出産直後に亡くなった司の母・久美子に、さらに悲しい過去があったことを知り、沙夜は胸がぎゅっと締めつけられた。
そんな辛い経験をしていたにもかかわらず、あの世界での久美子はとても幸せそうだった。
ということは――離れ離れになってしまった娘と、あの世で再会できたのだろうか。
「じゃあ、今はその娘さんと一緒にいるんですね……」
「そうかもしれないわね。沙夜さんからその話を聞いて、私もやっと肩の荷が下りた気がするわ。あの子は今、流産した娘と一緒に幸せに暮らしている……そう思えるだけで、なんだか報われるの」
芙美子は慌ててハンカチを取り出し、目元をそっと拭った。
沙夜もつられて涙があふれる。
「大切なお嬢さんをお嫁にいただいて、あんなに若くして亡くしてしまったんだもの。向こうのご両親に顔向けできないってずっと思っていたけれど……あなたからその話を聞けて、本当に良かった。ありがとう。沙夜さん」
「いえ……」
芙美子は沙夜の瞳をまっすぐ見つめ、続けた。
「司はね。口下手で不器用なところがあるけれど、芯はしっかりした誠実な子よ。結婚前にあなたを妊娠させてしまったことを、ずいぶん悔やんでいたの」
「……悔やんでいた? どうしてですか?」
「まだ若いあなたの自由を奪ってしまったって思っていたみたい。本当は、もっとゆっくり新婚生活を楽しんでから計画的に出産を……そう考えていたのに、いきなり妊娠させてしまっただけでなく、あなたをあんな危険な状態にしてしまって……それはもう、ずいぶん後悔していたわ。だから、あなたに対して後ろめたい気持ちがあるのかもしれないの」
「そんな……。私は迷惑だなんて思っていません」
「ふふ、ありがとう。でもね、あの子は責任感が強いから、どうしてもそう思ってしまうのよ。それに母親のこともあったから、あなたのことを相当心配していたみたい」
「私こそ、何も知らなくて……。もっと早く知っていたら……」
「知っていたら?」
「……もっと彼に寄り添うことができたのかなって……」
その言葉を聞いた芙美子は、ぱっと瞳を輝かせた。
「ありがとう。その気持ちがあれば、きっとうまくいくわ。不器用な子だけれど……沙夜さん、これからもよろしくお願いしますね」
「もちろんです。こちらこそ、末永くよろしくお願いいたします」
「ああ、よかった。これで私もすっきりしたわ。退院して余裕ができたら、ぜひうちに遊びにいらっしゃい。子守り、いくらでも変わってあげるから」
「わあ、ありがとうございます。ぜひ!」
二人は互いに目を見合わせ、嬉しそうにふふっと笑い合った。
芙美子が帰ったあと、沙夜は息子に会いに行った。
愛しい我が子は、母親に抱かれると嬉しそうに笑い、手足をせわしなく動かす。
授乳しながら沙夜は、その小さな命を見つめ、このうえない幸福感に満たされていた。
(新婚の頃、司さんがなんとなくよそよそしかったのは、私を妊娠させてしまった罪悪感から来ていたのかもしれない。彼なりに複雑な気持ちだったんだわ……)
芙美子に会ってそれがわかっただけでも、ありがたかった。
沙夜が感じていた司の冷たさは、すべて大きな誤解だったのだ。
授乳を終えた沙夜は部屋に戻り、窓の外を眺めた。
今夜は曇っていて月も星も見えない。
しかし沙夜の瞳には、まばゆいほどの無数の星が見えるように思えた。
次の瞬間、沙夜は決意したように携帯を手に取り、司にメッセージを送った。
【子供の名前、真剣に考えてみました。司さんが挙げてくれた候補の中の“彗”が素敵だなと思いましたが、いかがでしょうか?】
メッセージを送って一分もしないうちに、司から返事が来た。
【ありがとう。じゃあ、“彗”にしようか。“彗”で届を出しておくよ】
【よろしくお願いします】
沙夜は返事を送り、ふたたび夜空を見上げた。
その瞬間、雲の切れ間にきらりと何かが光った。
(流れ星……?)
しかし光はすぐに消え、あとかたもなくなった。
そして、夜空を見上げながら微笑む沙夜の唇からは、無意識のうちに、あのとき司の母が口ずさんでいた“きらきら星”の歌がそっとこぼれ始めた。
コメント
13件
沙夜ちゃんが生死の境を彷徨った時見た夢が沙夜ちゃんに人の芯の部分を見る事を教えてくれた事で自分の家族の事もよく見えて来て義母さんとも気持ちが繋がりそして司さんとも向き合おうという前向きな気持ちになりそして司さんのおばあさまにも久美子さんが空の上でも元気な事司さんの事を心配している事を知らせるすごい夢だっのですね これからは司さんと彗君と仲良く優しい家庭になっていくと良いですね
司さんが選んだ名前の候補の中から 「彗」君を選んだ沙夜ちゃん素敵です 月や星が見えなかったけど、沙夜ちゃんには見えて星空が輝いて、その中の ひとつの流れ星💫きっとお母様とお姉様からの「幸せになってね…」のメッセージかも🤭きらきら星の歌が流れて くる* :•*”:♡.•♬✧心が温かくなりました😊マリコ先生素敵な23話でした😭 (またまた…長文でごめんなさい😖🙏🏻)
司さんのお祖母様から聞く お母様のお話に私も優しい気持ち いっぱいです🥹沙夜ちゃんの事を 娘さんのように思っていてずっと 見守っていたんですね。お姉様分も 幸せになって欲しいと願っていたのかも知れませんね😊素敵なご家族ですね 司さんが妊娠させた事を後悔してると 言ってましたが…そんなことないと思います🥹愛し合っていたら自然な事ですよね…ふたりの宝物ですものね😉 (続きます🙇♀️🙏)