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最初は、ただのおすすめだった。
『距離感が近すぎる友人への対処法』
瀬那は、その動画を見た時、意味が分からなかった。
昼休み。
教室。
後ろの席。
晴翔が、前の席の奴らと笑っている。
その横顔を見ながら、瀬那はスマホを伏せた。
距離感?
誰と。
ブッ。
また通知。
【“特定人物への依存傾向を検出しました”】
瀬那は眉をしかめる。
開く。
動画。
“いつも同じ相手といる”
“その人中心で感情が動く”
“離れると不安になる”
どこか、馬鹿みたいな内容。
でも。
『早めに距離を取ることを推奨します』
最後のその一文だけが、妙に嫌だった。
「瀬那ー」
顔を上げる。
晴翔。
「購買行くけどいる?」
いつもの声。
いつもの顔。
瀬那は、一瞬だけ言葉に詰まる。
“距離を取れ”。
そんな通知が来た直後だったから。
でも。
「……焼きそばパン」
気づけば、普通に答えていた。
晴翔が笑う。
「はいはい」
そのまま、教室を出ていく。
瀬那は、その背中を見つめたまま動けなかった。
たぶん。
その頃にはもう、分かってた。
普通の友達に向ける感情じゃない。
でも。
言う気はなかった。
言った瞬間、終わると思っていたから。
クラスは、そういう空気じゃなかった。
“普通”。
皆、そこから外れるのを嫌ってる。
だから瀬那は、何も言わなかった。
でも。
おすすめ欄だけは、先に気づいていた。
『同性への過度な執着』
『周囲から誤解されやすい関係』
『依存的な接触を減らしましょう』
通知が増えていく。
最初は無視した。
でも。
少しずつ、周囲が変わり始めた。
晴翔と話していると、視線を感じる。
誰かが笑う。
「お前らいつも一緒じゃね?」
冗談っぽく。
軽く。
でも、その空気の変化を、瀬那は敏感に感じていた。
おすすめが、空気を作ってる。
そう気づいた頃には、もう遅かった。
ある日。
おすすめ欄に、晴翔の名前が出た。
【関わると孤立リスクが高まる人物】
瀬那の呼吸が止まる。
理由欄。
“空気を読まない”
“集団から浮きやすい”
“感情依存を誘発する”
意味が分からなかった。
晴翔は、何も悪くない。
ただ、真っ直ぐなだけだ。
でも。
瀬那は知っていた。
このおすすめ欄は、“理由”なんてどうでもいい。
一度載れば終わる。
距離を置かれる。
避けられる。
薄くなる。
消える。
その瞬間。
瀬那は、初めて怖くなった。
“晴翔が消える”。
それだけは、無理だった。
だから。
瀬那は、初めておすすめに逆らった。
晴翔の隣に座る。
話しかける。
帰る方向を合わせる。
わざと、今まで通りにした。
すると。
おすすめ欄は、晴翔ではなく。
瀬那の方を、異常扱いし始めた。
【未同期傾向を確認】
【正常化を推奨】
【関係性修正対象】
瀬那は、その画面を見ながら小さく笑った。
「あーあ」
別に、正義感じゃなかった。
世界を変えたいとか、そんな大層な理由でもない。
ただ。
晴翔が、誰にも話しかけられなくなる顔を、見たくなかった。
それだけだった。
だから瀬那は、消える前に手を打った。
旧放送室。
ログ。
動画。
痕跡。
“瀬那柊”が、完全に存在しなかったことにされないように。
たった一人だけでも、覚えているように。
全部。
晴翔のためだった。
最後の夜。
誰もいない教室。
夕方。
瀬那は、窓際の席に座りながら、 録画ボタンを押した。
『もし見つけたら』
ノイズ。
『多分、お前だけ残ってる』
少し笑う。
『おすすめ、見るなよ』
沈黙。
そして。
瀬那は、机に伏せた指を、ゆっくり握る。
本当は。
言いたかった。
ずっと。
でも。
晴翔が困る顔、簡単に想像できたから。
だから結局、最後まで言えなかった。
瀬那は、苦く笑う。
『……好きだった』
その瞬間。
画面に、ノイズが走る。
【未登録感情を検出】
【修正を開始します】
瀬那は、それを見ながら小さく呟いた。
「うるせぇよ」
コメント
1件
ああ~~~もう、胸が締め付けられた😭💔「おすすめ」に逆らってまで晴翔を守ろうとした瀬那の覚悟、重すぎて泣ける…。“好きだった”って最後にやっと言えたのに、修正が始まるラストが切なすぎるよ…。ruruhaさんの描く、静かで諦念漂う空気感が本当に好きです。晴翔、絶対にこのログを見つけてほしいな…。