テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
目が覚めたとき、部屋はまだ静かだった。
カーテン越しの光が柔らかく、時間の感覚が少し曖昧になる。
真白は布団の中で、少しだけ身じろぎする。
隣の気配は、もう起きているようだった。
「……起きてる?」
「うん」
声は近い。
思ったより近くて、真白は目を開ける。
「早い」
「遅い」
「今日は、いいでしょ」
「今日は、いい」
布団の中の空気は、まだ夜の名残を抱えている。
アレクシスはスマホを置き、真白の方を見る。
「外、静か」
「正月だから」
「理由、変わったね」
「今日は許される」
真白は布団から手を出し、アレクシスの袖を軽くつまむ。
「起きる?」
「もう少し」
「じゃあ、もう少し」
二人とも動かない。
動かなくていい理由が、ちゃんとある日だった。
しばらくして、キッチンから小さな音がした。
「……お腹すいた」
「起きる合図?」
「半分」
「残り半分は?」
「ぬくい」
「正直」
布団を出て、ゆっくりキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けると、昨夜の残りと、簡単な食材。
「正月っぽいもの、ないね」
「なくていい」
「それも正月?」
「たぶん」
トースターが鳴り、パンの匂いが広がる。
スープを温め直す音が、穏やかに続く。
「豪華じゃない」
「落ち着く」
「それ、褒めてる?」
「かなり」
食卓に並ぶのは、いつもより少しだけゆっくりした朝ごはん。
「ねえ」
「なに」
「今年の目標とか、考える?」
「今?」
「今じゃなくても」
アレクシスは少し考えてから、首を振る。
「一個だけある」
「なに」
「無理しない」
「それ、去年も言ってた」
「続いてるから」
「じゃあ、俺も」
「うん」
「寒い日は、くっつく」
「目標?」
「継続事項」
「達成しやすい」
真白はマグを両手で包み、にこっと笑う。
「今年も、よろしく」
「こちらこそ」
言葉は軽く、空気は柔らかい。
特別なことは何もない。
でも、朝がこんなふうに始まるなら、
今年も悪くないと、二人とも思っていた。