テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
外に出た瞬間、空気が変わった。
店内の白い光が背中で閉じられ、
夜の冷気が、容赦なく肌に貼りつく。
誰も「寒いな」とは言わない。
言う必要がない。
寒いのは、遥だけだから。
その会話の延長で、また遥を見る。
「まだ震えてる」
「さっきより酷くね?」
「店の中であれじゃ、外は無理だろ」
無理だ、と言いながら、
無理な状態に置いている自覚はない。
歩き出す。
自然と速度が上がる。
遅れたら、理由になる。
「ほら、離れんな」
「置いてくぞ」
置いていかれる、という言葉は使われない。
でも、全員が同じ前提で動いている。
――ここにいる限り、離脱は許されない。
通路を抜け、建物の影に入る。
街灯が一本、点いていない。
誰かが言う。
「ここなら見えないな」
それは相談でも確認でもない。
状況説明だ。
遥は立たされる。
背中が冷たい壁に触れる。
「薄着の理由、まだ分かんねぇ顔してるな」
誰かが肩に手を置く。
力は入っていない。
だからこそ、逃げられない。
「自分で選んだ格好だろ」
「自分で寒くなった」
「自分で罰受けてる」
言葉が積み重なるたび、
遥の中で因果関係が書き換えられていく。
(違う)
(でも……違うって言えない)
言えば、反抗になる。
反抗は、次の理由を生む。
「声出さないの、えらいじゃん」
「分かってきたな」
褒め言葉の形をした固定。
「こうやってさ」
誰かが、軽く指で遥の顎を上げる。
「下向くと、逃げるみたいに見える」
逃げていない。
逃げられないだけだ。
「ちゃんと立て」
「寒いなら、姿勢で示せ」
示す、という言葉で、
苦痛が義務に変換される。
時間の感覚が消える。
何分かも分からない。
ただ、誰かが飽きるまで。
「もういいか」
「次、どうする?」
その問いが出たとき、
遥の中で一瞬だけ、希望が生まれかける。
でも、すぐ潰される。
「帰すわけないだろ」
「ここまでやって」
やって、という言葉に、
具体的な内容は含まれていない。
だから否定もできない。
「帰ったらさ」
「薄着で出歩いてたって言われるんだろ?」
笑い声。
「自己管理できない」
「反省してない」
「また罰」
未来まで、先に決められている。
遥は、何も言わない。
言わないことでしか、
今を悪化させない方法がない。
(……俺が悪い)
(そういうことに、もうなってる)
誰かが背を向ける。
「行くぞ」
「置いてくなよ」
また歩き出す。
また後ろ。
足の感覚は戻らない。
でも、止まれない。
この集団の中で、
遥に許されている役割は一つだけだった。
――殴られなくなるまで、立って歩くこと。
そしてそれは、終わりを意味しない。
次の場所でも、同じ続きをやるだけだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
サッカーオタク
37
157
#闇
ruruha
900