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志絵に話を振られた賢が、言いにくいのか長い前髪をぞんざいに撫で付けると、後頭部をワシャワシャと掻きむしった後に俯き、勢い良く顔を上げた。
「あのさ……。俺の…………恋人のフリをしてくんない?」
「…………は?」
志絵は、賢が何を言っているのか一瞬分からず、キョトンとしながらも頭の中が混乱してしまう。
この男はイケメンで球界の有名人、今日だけでも、志絵は賢を見て何度ドキドキしたか分からないほど。
もしかしたら、クラス会の時から賢に対する想いが、志絵の中で少しずつ傾いていたのかもしれない。
(それなのに、目の前にいる男の恋人のフリをするって、何なの……?)
志絵は、嬉しいような、虚しいような気持ちを抱えながら居住まいを正すと、嚥下した言葉を高西に向けて投げ放つ。
「っていうかさ、さっきの電話、アンタの彼女と言われている、女優でモデルの桜井メリルでしょ?」
「…………ああ、そうだ。別れて二年経ってるけど、あの女、しつこいんだよな。ヨリを戻そうって」
志絵の問いに、賢が表情を歪ませると、観念したのか本音らしき言葉を言い捨てた。
「へぇ。あんな綺麗な芸能人に、アンタはバッチリ愛されちゃってるんだ?」
からかい混じりに言いながら、志絵は、テレビの中でしか見た事のない桜井メリルの容姿を思い出す。
艶やかな茶色のロングヘアに毛先を軽く巻き、フランス人形を思わせる瞳と目鼻立ちが整った可愛い雰囲気は、男心をくすぐるのかもしれない。
「うっ……うるせぇ……」
賢が、両手で髪を掻き上げた後、強くかぶりを振った。
「とにかく、こんな事をお前に頼むのは…………気が引けるっていうのもあるけど、高校時代のよしみであるお前にしか頼めないんだよ。なぁ総長。頼む! 俺の彼女のフリをしてくれっ……!」
ひれ伏すように頭を下げる賢の髪を見やりながら、志絵は少しの間、考えを巡らせていると、いいアイデアを思い付き、唇を歪めた。
「…………分かった。その代わり、条件が二つあるんだけど」
「…………条件?」
志絵はニヤッとしながら、捲し立てるように条件を提示し始めた。
「一つ目の条件は、スパローズのキャラクター、スパジローとスパ子の全キャラクターグッズを集めて私にくれる事。私、十二球団のマスコットキャラの最推しは、スパジローとスパ子なんだよねぇ。で、二つ目の条件は……」
彼女は、次第に表情をウットリさせながら、瞳を潤ませる。
「私、京阪OBの魚谷さん、布井さん、才見さんと、ヨグルトOBの『ブッチ』こと平渕さんが現役の頃からカッコ良くて大好きなの。私の中の『最強推し四天王』ね。ちなみにこの四天王様、著書も出してるから、サイン入りの本を私にくれる事」
二つの条件を出す事で、志絵は賢が頼み事を諦めてくれるだろうと、高を括っていた。
マシンガンを撃ち放つように喋りまくる彼女を見た賢が、呆気に取られている。
「条件を全部満たしたら…………アンタの恋人役をしてあげるよ」
コメント
1件
読み終わりました!賢が「恋人のフリしてくれ」ってズバッと頼んできたシーン、思わず声が出そうになりました(笑)。志絵さんの「え?」ってなってから、冷静に条件を出し返す切り替えが鮮やかで、やり手だなあと感心。条件にスパジロー&スパ子のグッズ集めと推し四天王のサイン本を入れるところ、彼女のファン心がにじみ出てて可愛かったです。言いにくそうに前髪を撫でる賢の仕草も、照れ隠しっぽくて印象に残りました。続きが気になります!