テラーノベル
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志絵は、賢が匙を投げるだろう、とほくそ笑むけど、彼は唇を引き結びながら彼女をじっと見据えている。
「…………望むところだ」
まさか、この男は条件を受け入れるつもりなのだろうか? 思いもよらない返事をされた志絵は、顔色を変え、狼狽える。
「に、しても。総長にも乙女心とやらが…………あったんだな。でも、安心しろよ?」
賢の眼差しが鋭さを増し、志絵を射抜くと、小さな顎を筋張った指先に掬われた。
キャットアイは徐々に丸みを帯びていき、シャープな彼の顔立ちが、グッと近付く。
「お前が尊いと思っている『偉大な四天王様』に対する乙女心…………俺が……ブッ壊してやっから」
お互いの鼻先が触れ合いそうな顔の距離間と、渋い声音が彼女の耳朶にまとわり付き、志絵はヒュッと息を詰まらせる。
「恋人役だけじゃなく……俺が……」
賢が何かを言いあぐねているのか、静寂の公園内は僅かに時が止まる。
「──お前を俺色に染めて……堕としてやるよ」
身体中をネットリと這うような言い草と、男の艶を滲ませた低い声に、彼女の身体はビクッと震え、仰け反らせる。
お互いを牽制するような視線が絡み合い、対峙がひとしきり続いた。
公園沿いの道から、車のライトと思しき青白い光が、二人の面差しをチラチラと照らされると、賢が志絵の顔と顎からゆっくりと離れていく。
「その前に、総長の連絡先、教えてくれ」
「…………わっ……分かったよ……」
志絵は、バッグからスマートフォンを引っ張り出すと、メッセージアプリのQRコードを表示させ、賢に差し出した。
彼がさっそく読み込むと、彼女の携帯電話から、賢が友だちに追加された通知音が小さく響く。
「さて……もう日付を跨いだか。そろそろ行くぞ」
「うっ……うん」
公園を後にした二人は再び歩き出すと、三分ほどで志絵が暮らしているマンションの前に到着した。
「高西。わざわざありがと……ね……」
「ああ。俺が条件をクリアするまで…………楽しみに待ってろよ? じゃあな、おやすみ」
「おっ…………おやすみ……なさい」
志絵は小さく手を振ると、賢も目を細めながら応え、踵を返して歩き出した。
彼の広い背中が少しずつ小さくなっていき、眠りに落ちている住宅街の暗闇に溶けていく。
「どうせなら『恋人のフリ』じゃなくて…………『恋人』って言われた方が良かったよ……』
賢の耳に届くはずのない言葉を置き去りにすると、志絵は複雑な思いを抱えたまま、そそくさと鍵を開けて部屋の中に入っていった。
コメント
1件
管野アリオさん、第13話読みました!賢さんの「ブッ壊してやっから」のセリフ、凄みと色気があってゾクゾクしました。視線や距離感の描き方が巧みで、お互いの緊張感が伝わってきました。最後の志絵さんの独白が切なくて、この関係がどう変わっていくのか楽しみです🌷
管野アリオ
733
#大人ロマンス
桃下結衣
208
#ロマンスファンタジー
Jasmine
1,008