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放課後の相談室。
窓際の席で、遥は消しゴムを指で転がしていた。
「……あの!」
勢いよく声が飛んできて、遥は顔を上げる。
立っていたのは、頬を少し赤くした男子。
「どうした」
「えっと……好きな人に、どうやって話しかけたらいいですか」
遥は瞬きを二回。
「……恋愛相談?」
「はい」
遥は軽く息をつき、笑った。
「悪いけど、俺、恋愛偏差値めっちゃ低いぞ」
男子は苦笑しつつも真剣な目を向ける。
「それでも……なんか、きっかけとかあれば」
遥は腕を組んで考え込むふりをした。
「……じゃあ、俺のやり方教える」
「おお」
「まず、話しかけられる距離に近づく」
「え、そんな当たり前のこと?」
「当たり前だけど、そこが一番ハードル高いんだよ。近づくだけで相手の空気とか匂いとか、なんか勝手に意識しちゃうから」
男子はふっと笑った。
「じゃあ、その先は?」
「……知らね。俺はそこまで行ったことがない」
遥が肩をすくめると、男子は思わず吹き出した。
「でもまあ、話しかけられる距離に立てたら、もう半分は成功してる。あとは、相手がどう思うかは相手の仕事」
男子は頷きながら、「じゃあ頑張って近づきます」と笑った。
その笑顔を見て、遥は少しだけ照れくさそうに窓の外を見た。
――俺も、誰かに近づける日が来るのかな。