「今、こちらのスタッフは休憩中ですのでもしよろしかったら私がご案内いたしますが」
女性店員は俊の瞳を一心に見つめ言った。
「いや、大丈夫です。戻られるまで二人でゆっくりと見ていますのでお気遣いなく」
俊ははっきりと断った。しかし俊の言葉など無視するように女性はしきりに言う。
「どんなお洋服をお探しですか?」
「どういったシーンに着て行かれるのですか?」
次から次へ矢継ぎ早に質問を始める。
客の意向を無視した接客はあまりにも酷過ぎるので雪子は半ば呆れ気味に女性の名札を見た。
すると名札には、
『江崎』
と書かれていた。この人が俊之の二人目の女性なのだとその時雪子はわかった。
そこで雪子は俊の左腕をギュッと掴んだ。
それに気づいた俊は目の前にいるぶしつけな店員の名札を見る。俊もわかったようだ。
そこで俊は改めて強い口調で言った。
「本当に大丈夫ですからお構いなく。それよりもおたくの店にお客様がお見えですよ」
ちょうど江崎のショップへ客が入って行くところだった。
江崎はあからさまにがっかりした様子で、
「あ、ではちょっと失礼いたします」
と言うとノロノロと自分のショップへ戻って行った。
江崎がいなくなると俊は雪子に言う。
「随分押しの強い人だったね。参ったよ」
俊が苦笑いをしたので雪子も頷く。
あんな女に俊之がそそのかされその結果降格処分になったのかと思うと雪子は呆れていた。
あの時離婚をしていおいて良かった。世間でよく言われている「一度浮気をした男は何度も繰り返す」という言葉は本当だったのだ。
スーパーの同僚節子が言っていた通りきっとDNAに浮気の遺伝子が組み込まれているに違いない。
もしあのまま結婚生活を続けていてもきっと50歳になってまた裏切られていたのだろう。そう思うとあの時離婚しておいて本当に良かったと思った。
その時明るく元気な声が響いた。
「あらー、俊来てくれたのねーありがとう」
俊の元妻・麻美が休憩から戻ってきたようだ。麻美は雪子が想像していた通りとても素敵な女性だった。
「言われた通り連れて来たよ。こちらが浅井雪子さん。で、こちらが元妻の沢口麻美さん」
俊は女性2人を引き合わせた。
「初めまして沢口と申します。今日はご来店ありがとうございます」
麻美は挨拶をしながら名刺を雪子へ渡した。雪子も麻美に挨拶をする。
「浅井です。この度はご結婚おめでとうございます」
すると麻美は嬉しそうに微笑んで言った。
「ありがとうございます。俊から聞いているかもしれないけれど雪子さんも是非一緒に結婚パーティーへ来て貰えないかしら?」
「私なんかがお邪魔してもよろしいのでしょうか?」
「もちろんよ! ほら、元夫婦の片割れだけが幸せになるなんてちょっと後ろめたいでしょう? だから俊が雪子さんと付き合っているって聞いて飛び上がるくらい嬉しかったの。俊にもお相手がいるなら心置きなく幸せになれるじゃない?」
「おいおい、なんか俺が一人だと可哀そう的な扱いはやめてくれよ」
「あら、だってそうじゃない。この人ねぇ、意外と淋しがり屋なのよぉ」
麻美の言葉に思わず雪子はフフッと笑う。俊は参ったなという顔をしていた。
「挨拶はもうそのくらいにして彼女にパーティー用の服を選んでくれよ」
「はいはいわかってますよー! じゃあ雪子さん服を選びましょうか? どういうのが好みかしら?」
麻美はさりげなく雪子の身体をチェックした。この年代にしては雪子はスレンダーでメリハリのあるボディをしていた。
肌はきめ細やかで色白の雪子に似合う服はどれだろうか? 麻美はイメージしながら店内の服を見る。
その時ちょうど雪子に似合いそうなワンピースがちょうど昨日入荷していたのを思い出したのでバックヤードへ取りに行った。
そのワンピース以外にも雪子に似合いそうな服をいくつかチョイスして持って来る。
「雪子さん試着室へどうぞ」
麻美に呼ばれた雪子は奥の試着室へ向かった。
俊はショップ内にあるソファーへ座りスマホで仕事関係のメールをチェックする。その時傍に人の気配を感じた。
そこには先ほどの江崎の姿があった。
俊はびっくりして江崎に聞いた。
「何か?」
「いえ、お客様ってもしかしたら有名な方なのかなーと思って。どこかでお見掛けしたような?」
俊はいぶかし気な顔で答える。
「いえ、違いますが」
俊が迷惑そうにしていても江崎は気にする事なくさらに食らい付いて来た。
「あっ、わかりました! 俳優の豊村さんにそっくりだから勘違いしちゃったんだわ」
江崎はそう言って一人でクスクス笑っている。
この女は何か勘違いをしているようだ。自分が話しかければ全ての男が喜ぶと思っているようだ。
俊は相手をするのもばからしくて江崎を無視するとまたスマホへ集中する。
江崎は俊に声をかけても思っていた反応が返って来なかったので明らかに面白くないという顔でムスッとしていた。
しかしすぐに笑顔を浮かべるとまた話しかけてきた。
「よく日に焼けていらっしゃいますがゴルフ焼けですか?」
「…………」
俊はその問いにスルーしながら内心呆れていた。
一流デパートのセレクトショップの店員がこれではダメだろう。
ここは老舗デパートの本店だ。こんな店員がいる事自体間違っている。
先ほど会った雪子の同期の加奈子はきちんとしていた。デパートの正社員はそれなりにきちんと教育を受けているのだろう。
しかしこの店員は駄目だ。いくら有名ブランドのブースで働いていても接客のレベルは最低だった。
俊が難しい顔をしているのでさすがの江崎も諦めたようだ。
その時江崎のショップから大きな声が響いた。
「江崎さんっ、一体何しているの? ちょっと戻って来て!」
江崎の店の店長が休憩から戻って来たようだ。戻って来たら江崎が隣のショップで男をナンパしているので呆れて声を荒げたのだろう。
江崎は顔色を変えると慌てて戻って行った。
「ちょっとぉ、また売り場を離れていたのね! これで何度目? ちゃんと仕事をしてくれないと困るじゃない!」
店長はかなりお怒りのようだ。あの口調からするとこんな事は日常茶飯事のようだ。
俊は叱られている江崎を横目に思わずフーッとため息をついた。
コメント
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せっかく元妻のセレクトショップで 素敵なお洋服を見立てて貰おうと、 二人で楽しくお店にやって来たのに....👩❤️👨 勘違い女にしつこく付きまとわれてゲッソリですね😰💧 まあ~愛人江崎も、きっとそのうちスタッフや客からのクレームで 派遣をクビになるのでは....⁉️😁 雪子さんのドレス姿、楽しみですね~👗👠✨ 俊さんは、美しい雪子さんに さらに夢中になっちゃう⁉️😍💖✨
ノルノルさん200%😆激しく同感いたします💨💨💨 どーしよーもないお◯ズコンビ🤢 俊さんの対応は拍手もの👏✨ ささ、気分を変えて雪子さんの👗選びしましょー✨惚れ直すなよ〜俊さんヾ(*>∀<)ノ゙キャハハッ♡
浮気遺伝子inと評価された元夫の評価をさらに下げた愛人江崎の対応が🗑️◯ズ‼️ 派遣でもありえないでしょ⁉️まさに男漁りに来てるレベル😱🙀⚡️ 俊さんは女慣れしてるから対応も神だしせっかく元妻の素敵なセレクトショップで雪子さんに似合う服👗を選びに来たのにこんな接客を受けたらもう来たくなくなるわ😡💢 とにかく◯半身ユルユルの元夫とはさっさと別れて大正解でしたね、雪子さん◎‼️✨