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教室の隅。放課後。皆のざわめきが消えていく中で、まだ席を立たずにいた日下部に向かって、俺はぽつりと口を開いた。
「……お前、さ。俺が……誰に何されてきたか、知ってんだろ」
唐突だった。けど、止まらなかった。
「だったら……なんで、お前まで……優しくすんの?」
声が震えていた。怒っているようで、怒りきれなかった。
疑っているようで、本当は、ただ――怖かった。
日下部は黙ったまま、俺の方を見ていた。動かない。逃げない。ただ、目を逸らさない。
それが、怖かった。優しすぎて。
「試してんだよ、俺……お前が、どこまでで離れてくか……そういうの、分かってる?」
自嘲気味に笑う。喉の奥が焼けるようだった。
「無理させてんの、分かってるよ。でもさ……俺、もう、信じ方わかんねーよ。優しくされても、あとで裏切られる方がマシって……思ってんのかも」
日下部が何か言おうと口を開いた瞬間、俺は被せるように言った。
「俺が……お前のこと嫌いになったら、楽になれる?」
ぐちゃぐちゃだった。全部。
俺の言葉も、感情も、距離感も。
――それでも、どこかで望んでた。
こんな壊れかけの俺を、まだ見捨てずにいる理由を。
それを、言葉にしてほしかった。
けれど、それを望んでしまうことこそが、何よりも恐ろしかった。
「もうさ……優しくすんなよ。わかんなくなるだろ……」
吐き捨てたつもりだった。
けど、声は――泣いていた。