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たぶん、こんなの間違ってるって、自分でも分かってる。それでも——試さずにはいられなかった。
教室の片隅。誰もいない放課後。
カーテン越しの光が床に長く影を引く中で、遥は日下部の前に立った。
俯いているくせに、視線だけは上目遣いで、まるで無意識の演技のように。
「……おまえさ、ほんとは俺のこと、どうでもいいだろ」
呟く声はかすれている。
挑発とも、訴えともつかない。
それは自傷に近い試し行動だった。
「……ほら、そうやって何も言わない。黙ってりゃ済むと思ってんのかよ」
わざと、日下部の手を掴んだ。指先が震えていたのに、それを見せないようにして。
その体温を感じるだけで、自分が一瞬、安心してしまうのが怖かった。
「おまえの言う優しさって、どっかで終わんだろ? ……どこ? どこまで耐えてくれんの?」
遠回しに、自分を拒絶してほしかったのかもしれない。
そうすれば、「やっぱり」と思えてしまえるから。
「こんな俺、どうせいつか嫌になるよ。今のうちにさ……試してんだよ、俺」
そこまで言って、遥は急に黙った。
喉の奥が痛いほど詰まって、涙も出ない。
ただ、壊れたみたいに笑ってみせた。
――本当は、嫌われたくなんかなかった。
でも、無償のものなんて信じられない。
愛されるなんて、望んじゃいけない。
そう教え込まれてきた。身体に、心に、染みついていた。
「……それでも、おまえ、離れないの?」
声が、震えていた。
それは試す言葉じゃなかった。
ほとんど、祈るような声だった。