テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
昼過ぎの駅前は、平日でも妙に落ち着かない。
真白はアレクシスの半歩後ろを歩きながら、人の流れをぼんやり眺めていた。
「ここ、来たことある?」
「ない。用事も、特にない」
「だよね」
二人が並んでいるのは、古い写真館の前だった。
今どき珍しい、証明写真も手動で撮るタイプの店。
「会社から言われて」
アレクシスが少し気まずそうに言う。
「更新用?」
「うん。データ提出でもいいんだけど、写真の雰囲気が硬すぎるって」
「それで、ここ?」
「なんとなく」
真白は看板を見上げた。
色褪せた文字と、無表情な見本写真。
「……確かに、今どきだと逆に新鮮かも」
中に入ると、年配の店主が一人いるだけだった。
椅子が二脚、壁に沿って並んでいる。
「お連れの方は、こちらでお待ちください」
真白は頷いて、壁際の椅子に座る。
アレクシスは撮影用の椅子に腰掛け、姿勢を正す。
店主が位置を微調整し、無言でシャッターを切る。
静かだ。
シャッター音だけが、間隔を空けて響く。
真白は、その様子を見ながら思う。
――仕事の顔だ。
家にいるときとも、ランチのときとも違う。
少し背筋が伸びて、表情が整っている。
撮影が終わり、アレクシスが戻ってくる。
「どうだった?」
「……ちゃんとしてた」
「それ、褒めてる?」
「たぶん」
写真の仕上がりを待つ間、二人で並んで座る。
「真白は、写真撮るの苦手そう」
「嫌いではないけど、用途がない」
「履歴書とか」
「もう書かない」
少し間が空く。
「……でも」
真白が小さく言う。
「たまに、残る形があるのはいいかも」
アレクシスは、その言葉を聞いてから、ゆっくり頷いた。
「じゃあ、今度は二人で撮ろうか」
「用途ないよ」
「用途は、あとで考える」
写真が出来上がり、封筒に入れて渡される。
店を出ると、外の光が思ったより強かった。
「思ったより、悪くなかった」
「でしょ」
真白は歩きながら、封筒をちらりと見る。
記録でも、仕事でもない。
ただ今日ここに来た、という事実だけが残る。
それで十分だ、と珍しく思った。