テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#すれ違い
ruruha
155
2,219
🦋
123
真白は、朝から何もしなかった。
正確には、何もしないことを選んだ、に近い。
机の上にはノートPCが閉じたまま置かれ、スマホも触られていない。
アレクシスがキッチンから戻ってきて、その様子に一瞬だけ足を止めた。
「……今日は?」
「任せる」
「何を」
「一日」
短く言って、真白はソファの背に頭を預けた。
目は開いているが、焦点が合っていない。
アレクシスは何も言わず、少し考えてから上着を脱ぐ。
「じゃあ、俺が決めるよ」
「うん」
返事はそれだけだった。
午前中、真白はほとんど動かない。
ブランケットを膝にかけ、窓の外を眺めたり、天井を見たりしている。
アレクシスは掃除を途中でやめ、コーヒーも出さない。
代わりに、少し温度の低いお茶を置いた。
「飲めそう?」
「……あとで」
昼前、真白がようやく体を起こす。
「何か食べる?」
「決めていい」
「本当に?」
「今日は考えない日」
アレクシスは、軽く息を吐いてから頷いた。
「じゃあ、軽いの」
簡単なものを作り、量も控えめにする。
真白は文句を言わず、黙って食べる。
「味、どう?」
「ちゃんとしてる」
「それ評価?」
「高め」
午後、真白はソファに戻るが、今度は横になる。
アレクシスは隣に座らず、少し離れた椅子に腰掛けた。
近づきすぎない。
でも、視界からは外れない距離。
しばらくして、真白がぽつりと言う。
「……楽」
「うん」
「任せるの、楽だね」
「たまにはね」
夕方近く、真白は少しだけ目がはっきりしてきた。
「今日は、何点?」
「まだ途中」
「厳しい」
アレクシスは小さく笑う。
「夜まであるから」
日が落ちる頃、真白は自分から立ち上がった。
「そろそろ、戻る」
「戻る?」
「考える側に」
アレクシスはそれを止めない。
「じゃあ、今日はここまで」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
その言葉だけで、十分だった。
今日は何もしなかった日じゃない。
真白は、そう思いながらブランケットを畳んだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!