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真白は、朝から何もしなかった。
正確には、何もしないことを選んだ、に近い。
机の上にはノートPCが閉じたまま置かれ、スマホも触られていない。
アレクシスがキッチンから戻ってきて、その様子に一瞬だけ足を止めた。
「……今日は?」
「任せる」
「何を」
「一日」
短く言って、真白はソファの背に頭を預けた。
目は開いているが、焦点が合っていない。
アレクシスは何も言わず、少し考えてから上着を脱ぐ。
「じゃあ、俺が決めるよ」
「うん」
返事はそれだけだった。
午前中、真白はほとんど動かない。
ブランケットを膝にかけ、窓の外を眺めたり、天井を見たりしている。
アレクシスは掃除を途中でやめ、コーヒーも出さない。
代わりに、少し温度の低いお茶を置いた。
「飲めそう?」
「……あとで」
昼前、真白がようやく体を起こす。
「何か食べる?」
「決めていい」
「本当に?」
「今日は考えない日」
アレクシスは、軽く息を吐いてから頷いた。
「じゃあ、軽いの」
簡単なものを作り、量も控えめにする。
真白は文句を言わず、黙って食べる。
「味、どう?」
「ちゃんとしてる」
「それ評価?」
「高め」
午後、真白はソファに戻るが、今度は横になる。
アレクシスは隣に座らず、少し離れた椅子に腰掛けた。
近づきすぎない。
でも、視界からは外れない距離。
しばらくして、真白がぽつりと言う。
「……楽」
「うん」
「任せるの、楽だね」
「たまにはね」
夕方近く、真白は少しだけ目がはっきりしてきた。
「今日は、何点?」
「まだ途中」
「厳しい」
アレクシスは小さく笑う。
「夜まであるから」
日が落ちる頃、真白は自分から立ち上がった。
「そろそろ、戻る」
「戻る?」
「考える側に」
アレクシスはそれを止めない。
「じゃあ、今日はここまで」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
その言葉だけで、十分だった。
今日は何もしなかった日じゃない。
真白は、そう思いながらブランケットを畳んだ。