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遥がそのショッピングモールに来た理由は、特別な用事じゃない。
母に言われたからだ。
「夕飯の買い出し、あんた行きなさい」
兄弟たちは誰も動かない。
遥だけが指定される。
制服じゃない。
私服だ。
だから大丈夫だと思ってしまった。
――それが、最初の間違い。
フードコートの前で、声がかかる。
「あれ? 遥じゃん」
振り向いた瞬間、空気が変わる。
一人じゃない。
同じ学校の連中、それに、見覚えのない顔。
他校の制服のバッグ、 別の中学の校章。
学校が、混ざっている。
「え、こいつ?」
「マジで? 有名なやつじゃん」
「へー、こんなとこでも一人?」
誰も声を張らない。
通行人に聞こえない距離。
逃げれば、追える距離。
遥が一歩引いたとき、背後から肩を掴まれる。
「なに逃げてんの」
「休日だよ? ノリ悪くね?」
買い物袋が床に落ちる。
卵のパックが、鈍い音を立てて割れる。
誰も助けない。
誰も見ていないふりをする。
壁際に追い込まれる。
ゲームセンターの裏、死角。
「学校じゃ静かだけどさ」
「外だと、もっと大人しいんだ」
一人が遥の胸元を軽く突く。
強くない。
でも、次が来るのを知っている力。
別のやつが笑う。
「ほら、また反応しない」
「相変わらずだな、サンドバッグ」
殴られる。
腹。
肩。
顔は避ける。
“目立たないように”という配慮。
遥は声を出さない。
出したら、もっと楽しまれると知っている。
「ほら」
「嫌なら、言えよ」
言わない。
言えない。
すると、誰かが言う。
「じゃあ、いいってことじゃん」
それが、合図になる。
他校のやつが加わる。
初対面なのに、躊躇がない。
「学校違うから、俺ら関係ないし」
「問題起きても、知らねーよ」
殴られ、突き飛ばされ、床に落とされる。
遥は丸くなる。
防御の形。
それを見て、笑われる。
「守ってる」
「可愛いじゃん」
痛みより、楽しんでいる空気が、遥を壊す。
遠くで、子どもの笑い声。
アナウンス。
休日の音。
この場所は、“学校じゃない”。
だから――
先生はいない。
保健室もない。
責任を取る人間もいない。
ただ、遥が悪いことだけが、共有されている。
最後に誰かが言う。
「買い物? 偉いね」
「また見かけたら、声かけるわ」
遥は動けない。
割れた卵の匂いだけが、残る。
家に帰れば、母は言うだろう。
「遅い」
「なんでそんなに汚れてるの」
――休日ですら、
遥にとっては校内だった。
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