テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夜の学校。静まり返った相談室。
扉がきしむ音とともに、今日の来訪者が入ってきた。
来訪者(高2・女子)
「……こんばんは。突然でごめんなさい。
私、人から褒められるのが苦手なんです。
嬉しいはずなのに、なぜか落ち着かなくて」
日下部
「褒められると、心がざわつく感じ?」
来訪者
「はい。
“次もちゃんとやらなきゃ”って、すぐ思ってしまう。
褒められた言葉が、重く感じるんです」
日下部
「褒められることを“評価”として受け取ってるのかもな。
認めてもらえた証拠のはずが、義務みたいになる」
来訪者
「そうかもしれません。
だから褒められても、笑えなくて……」
日下部
「でも、その言葉を“あなたを見ていた証”だと
考えてみたことはある?
ただ誰かが、君の存在を確かめた印みたいなものとして」
来訪者
「……見ていた証……。
それなら少し、怖くないかもしれない」
日下部
「褒められて嬉しくなくてもいい。
“私がここにいた”って残るだけで、十分だよ。
その証拠をポケットに入れておくみたいに、
ただ持っていてほしい」
来訪者は小さく息を吐いた。
その吐息が、夜の空気にやわらかく溶けていった。
日下部は静かに微笑んだ。
「褒め言葉は、誰かが君を見ていた証。
それを全部信じなくても、ただ受け取るだけでいい」
来訪者は、少しだけ肩を軽くして部屋を出ていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!