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時計の針が、いつの間にか正午を少し回っていた。
真白は画面の端に表示された時間を見て、小さく息を吐く。
「……一区切り」
独り言のように言って、ノートパソコンを閉じた。
完全に終わったわけじゃない。ただ、これ以上やると雑になる、と身体が言っている。
「終わった?」
キッチンの方から、アレクシスの声がする。
コーヒーを淹れていたらしく、湯気の音が微かに聞こえた。
「一区切り。そっちは?」
「こっちも、ちょうど」
アレクシスはマグを二つ持って戻ってくる。
一つを真白の前に置き、もう一つを自分の手元に。
「ランチ、どうする?」
「外行く?」
「うん。久しぶりに」
真白は少し考えてから、頷いた。
外出の準備は、どちらも手早い。
真白はパーカーを羽織り、アレクシスはコートの前を留める。
近所の店に向かうだけなのに、二人で並んで歩くと、それだけで予定みたいになる。
「どこ行く?」
「この前言ってた、角の店」
「ああ、パスタの」
「混んでなければ」
昼時の通りは、思ったより静かだった。
店の前に並びはなく、二人はそのまま中へ入る。
窓際の席に案内され、向かい合って座る。
「仕事のあとって、腹減るね」
真白がメニューを見ながら言う。
「頭使うと、特に」
「……そっちの仕事も、頭使うよね」
「まあね。でも真白ほどじゃないと思う」
「いや、それはない」
軽いやり取りが、自然に続く。
注文を終えると、真白は背もたれに体を預けた。
「在宅の日って、区切り難しい」
「わかる。終わった感じ、しないよね」
「うん。だから、こうやって外出ると助かる」
アレクシスは、少しだけ視線を柔らかくした。
「じゃあ、今日のランチは、仕事の終わりの合図だ」
「いいね、それ」
料理が運ばれてくる。
湯気と一緒に、昼の匂いが広がる。
「いただきます」
ほぼ同時に言って、二人は食べ始めた。
しばらくは無言。
でも、その沈黙は居心地がいい。
「……うまい」
真白がぽつりと呟く。
「でしょ」
アレクシスは少し誇らしげに笑った。
昼をまたいで、仕事と生活の境目が、ゆっくり溶けていく。
真白はフォークを置いて、ふと思う。
――こういうランチが、ちゃんと休みになるんだな、と。
外の光は、まだ明るかった。