テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
緊張しながらマイクをギュッと握りしめると、司会役でもある志絵の挨拶でコラボレーションイベントがスタートした。
この日は、ヨグルトスパローズの選手が打席に立つ際、テーマソングとして使用している楽曲と、各選手の応援歌をメドレーで演奏する。
最後は、ゲストとして来場した高西賢にインタビューをした後、彼がマウンドに上がる時に流れて欲しい曲をリクエストしてもらい、演奏してコラボレーションイベントが終了、という流れだ。
『たらもちゃん』こと笹岡美紅の演奏は、全てアドリブで行われ、志絵は司会進行をしつつ、親友が奏でる音色を聴きながら、手元にあるセットリストと進行スケジュール表を確認する。
会場では美紅の演奏に手拍子が添えられ、中には口ずさんでいるファンもいた。
(美紅の即興演奏は、学生時代と変わらず、すごい……)
演奏が応援歌のメドレーに変わると、ヨグルトファンが手拍子をしながら応援歌を歌い、美紅もテンションが上がっているのか、笑顔を覗かせながらピアノを力強く演奏した。
「本日は、ヨグルトスパローズからゲストをお招きしております。今シーズンからヨグルトスパローズでプレーする、ピッチャーの高西賢選手です。皆様、大きな拍手でお迎え下さい!」
志絵が賢を紹介し、舞台袖から彼が登場すると、一際大きな拍手が湧き上がり、賢は照れているのか唇を緩ませていた。
「こんにちは。今季からヨグルトスパローズに移籍した高西賢です。よろしくお願いします」
賢が挨拶すると、志絵は彼と向かい合い、マイクを彼に向けてインタビューを開始した。
「開幕まで、二ヶ月を切りましたが、今季の目標をお聞かせ下さい」
「まずは、スパローズの日本一です。個人的な目標は、ここ数年、調子が上がらず一軍と二軍を行き来していたので、今シーズンは新天地のスパローズで、一軍定着と最低でも十勝をあげたいと思ってます」
賢の頼もしい答えに、客席から静かに拍手が湧き起こった。
(ヤバい……高西がカッコ良くて眩しいんだけどっ……! って、仕事中じゃん私っ……!)
凛々(りり)しくなった同級生に見惚れそうになった志絵は、気持ちを引き締めるように、マイクを握り直し、質問を続けている。
「では最後に、高西選手がマウンド上に向かう時、この曲が流れたら嬉しい、と思う曲は何でしょうか?」
「う〜ん…………そうですね……」
賢が遠くに視線をやりながら逡巡した後、志絵に眼差しをかち合わせてきた。
「ゆずの『栄光の架橋』です」
彼のキッパリとした口調の回答を聞き、志絵は心が高校時代の頃に持っていかれそうになった。
高校一年の時、賢と休み時間での会話で、『栄光の架橋』を聴くとすごく励まされる、と言っていたのを思い出す。
『今はまだベンチにすら入れないけど、絶対にレギュラーを掴み取る!』と、彼は教室で静かな闘志を燃やしていた。
「高西選手にとりましても、とても大切な曲なのでしょうね。では最後に『栄光の架橋』の演奏をもちまして、本日のコラボレーションイベントをお開きとさせて頂きます。それでは、演奏をよろしくお願いします」
たらもちゃんが煌びやかな音色で、イントロを静かに奏で始めると、賢が旋律をじっくりと堪能するように耳を澄ませ、そんな様子の彼をチラリと見やる志絵。
たらもちゃんとヨグルトスパローズのコラボレーションイベントは、大盛況の中、無事に終了した。
コメント
1件
いやもう、読んでてこっちまで胸が熱くなりました……美紅のアドリブ演奏とか、志絵が仕事中なのに賢に見惚れちゃうとことか、全部リアルでキュンとしました。特に賢が選んだ『栄光の架橋』、高校時代の「絶対レギュラー掴む」って言葉が走馬灯みたいに蘇ってきて、成長した二人の今の距離感にグッときました。次の展開がもう待ち遠しいです!🤍🥀
管野アリオ
733
#大人ロマンス
桃下結衣
208
#ロマンスファンタジー
Jasmine
1,008