テラーノベル
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布団の中、遥は何度も寝返りを打った。背中に、皮膚に、内側に、蓮司の声がへばりついている。
「夢、見ろよ」──そのひとことが、耳奥に残って離れない。
眠っているはずなのに、どこか浅い。
記憶と夢と感覚が、ぐちゃぐちゃに絡まり、境界が滲んでいた。
──気がつけば、見慣れた教室の中。
なのに、机はひとつもなく、誰もいない。
自分ひとりが立っている。
薄暗い空気。どこか湿っていて、やけに静かすぎる。
不意に、背後から気配がした。
振り返ると、そこに日下部がいた。
だけど──
それは“日下部の顔をした何か”だった。
輪郭は日下部。
声も、たぶんそう。
でも目が違う。深く、沈んで、どこか“蓮司の目”に似ている。
「遥」
その声は、優しく、静かで。
でも、そこにある“何か”が遥の心臓を強く叩いた。
「触っても、いい?」
遥は首を横に振る。
けれど身体が動かない。
脚が、手が、言うことを聞かない。
──違う、やめて。
やめろよ、オレは、そんな──
「ほんとは、望んでるんだろ」
夢の中の“日下部”が、指先で遥の首筋をなぞった。
ぴくんと、身体が跳ねた。
──あ。
わかってしまった。
この感覚。
これは、快感だった。
嫌なのに。違うのに。やめてほしいのに。
それでも、体は。
「ここ、気持ちいい?」
声は柔らかい。でも、明らかに愉しんでいた。
その手が、胸元を撫でてくる。シャツの布越しに、微かに擦れる。
「……っ、やめろ」
声が出た。でも、掠れている。
痛みでも快感でもない、混ざった何かが喉を押し出していた。
「ねえ、遥……オレのこと、見て。ほんとの気持ち、言ってみてよ」
指が、もっと奥へ。
腹部、脚の付け根、そこに近づいていく。
ぞわり、と電流のような感覚が走った。
遥は、声を押し殺したまま、唇を噛んだ。
歯が食い込み、血の味が滲む。
でも、それより先に身体が反応していく。
──どうして。
なんで、やめてって思ってるのに、反応するんだよ。
気持ち悪い。
オレ、最低だ。
快感に震える自分の体を、遥は心の中で何百回も殴りつけた。
「抱かれたいんだろ? 壊されたいんだろ?」
日下部の顔をした“それ”が笑う。
その笑みは──まるで、蓮司。
「ほんとは俺に、されたいんじゃないの?」
遥の目から、ぽた、と涙が落ちた。
声も出ない。
恥ずかしさと嫌悪と、どうしようもない悦びが、ぐちゃぐちゃに体の中で暴れていた。
──やめて。
やめて、誰か。
──オレを、殺してくれ。
目が覚めたとき、遥の頬には涙の跡があった。
体の奥には、まだ熱が残っていた。
布団の中で、自分の身体を抱きしめた。
どうしようもなく、気持ち悪かった。
それが、日下部への気持ちだなんて──
認めたら、すべてが終わってしまう。
でも、夢の中で確かに思った。
「……ほんとは、壊されたかったのかもしれない」
誰にも聞かれないように、遥は、声にならない声でそう呟いた。
※今後、こういう夢を見るようになっていく(省くかも知れませんが……)。
チャットノベルの方にも書いてみよ、と思って書いてみたが世界観おかしくなったかも……。
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