テラーノベル
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ドアが開く。
相談者は椅子に座ると、しばらく黙っていた。
「人の失敗ってさ」
蓮司は向かいに座る。
「何だ」
「そんなに引きずらないんだ」
「例えば」
「友達が言い間違えたり、約束忘れたり、変な空気になったりしても、『まあそういう日もあるよな』って思える」
「自分なら」
相談者は苦笑した。
「何日も覚えてる」
少し間が空く。
「何年経っても思い出すことある」
「あるな」
「夜に急に思い出して、『何であんなこと言ったんだろ』って」
蓮司は少し考えた。
「その失敗、相手は覚えてると思うか」
「……分からない」
「多分?」
「覚えてないかも」
「じゃあ、お前だけ覚えてる可能性もある」
相談者は黙った。
「でも、自分は忘れられない」
「そりゃそうだ」
蓮司は机に軽く指を置く。
「お前は、お前の人生を二十四時間見てる」
相談者は顔を上げる。
「他人は?」
「お前の人生を生きてない」
少し静かな時間が流れる。
「当たり前なんだけど」
相談者は笑った。
「言われるまで考えたことなかった」
「人は自分のことで忙しい」
「そうか」
「だから、お前の失敗をずっと保存してるとは限らない」
相談者はゆっくり頷いた。
間が空く。
「でもさ」
相談者は視線を落とした。
「許せないんだよ」
「何が」
「あの時もっと違う言い方できたとか、ちゃんと考えればよかったとか」
蓮司は静かに聞いていた。
「一つ聞く」
「何」
「あの時のお前は、本当に今と同じだったか」
相談者は首を横に振る。
「違う」
「知ってることも」
「違う」
「考え方も」
「違う」
「経験も」
「違う」
蓮司は頷く。
「今のお前が、昔のお前を裁いてる」
相談者は言葉を失った。
「……確かに」
「しかも今の知識を使って」
「それ、ずるいな」
「かなりな」
少し笑いが漏れる。
笑いが消えると、相談者がぽつりと言った。
「でも失敗したのは事実だ」
「そうだな」
「じゃあ許しちゃ駄目なんじゃないか」
蓮司は少し首を傾ける。
「許すって、なかったことにすることか」
相談者は考える。
「違う」
「失敗したことを認めた上で、終わらせることじゃないか」
相談者は黙った。
「終わらせる……」
「ずっと刑を延長しても、過去は変わらない」
静かな時間が流れる。
相談者は机を見つめる。
「自分だけ、何回も同じことで罰を受けてたのか」
「誰が判決出した」
「……自分」
「誰が延長した」
「自分」
蓮司は少し笑った。
「裁判官も被告も一人だな」
相談者は思わず吹き出した。
「最悪だ」
「忙しいな」
二人とも少し笑う。
笑いが落ち着いたあと、相談者は静かに言った。
「人には『気にしなくていいよ』って言えるのにな」
「その言葉、一回くらい自分にも使ってやれ」
相談者はゆっくり立ち上がる。
ドアの前で振り返った。
「難しいけど、やってみる」
「一回でできなくてもいい」
相談者は小さく頷く。
「少しずつか」
「その方が現実的だ」
相談者は静かに部屋を出ていった。
ドアが閉まる。
人の失敗には優しくできるのに、自分の失敗だけは許せないことがある。
それは、自分を大切に思っていないからではなく、毎日ずっと自分を見続けているからなのかもしれない。
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コメント
1件
うわあ…深い…!!😭💔 人の失敗はすぐ許せるのに自分だけは何年も引きずるの、めっちゃわかるし胸がぎゅっとなった。蓮司さんの「裁判官も被告も一人」って言葉がめちゃくちゃ刺さる…。ここまで寄り添った会話劇で描けるの、ほんとすごいな。自分に優しくする練習、少しずつでいいんだって思えたよ。ruruhaさんの作品、いつも心の奥まで響くわ…ありがとうございます🌸