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アレクシスは、コートのポケットに手を入れたまま立っていた。
夜の路地。
自販機の灯りだけが明るい。
真白は少し離れたところで財布を探している。
鞄の中。
ポケット。
もう一度鞄。
「……ない」
小さく言う。
聞こえる距離。
「小銭?」
「うん」
「出すよ」
「いい」
真白は自販機の前に立つ。
温かい飲み物のボタンを見ている。
押さない。
アレクシスは少しだけ様子を見る。
寒そうだ。
でも、言わない。
やがて真白が振り向く。
「……百円だけ」
「ん」
差し出す。
受け取る。
ボタンを押す。
缶が落ちる音。
取り出す。
すぐには開けない。
手の中で少し温めている。
「もう一個買えば?」
「一本でいい」
「足りる?」
「足りる」
真白は缶を持ったまま歩き出す。
開けない。
アレクシスも歩き出す。
少し後ろ。
角を曲がる頃、真白が足を止めた。
缶を差し出す。
「……半分」
「まだ開けてないのに?」
「いいから」
受け取る。
プルタブを開ける。
湯気が少し出る。
一口飲む。
返す。
真白が受け取って飲む。
何も言わない。
また歩く。
缶はもう片手で持っている。
夜は静か。
足音だけ。
アレクシスは少し前を歩く真白の背中を見る。
肩が少しだけ丸い。
寒いのか、疲れているのか。
どちらでもいい。
隣にいるから。
「寒い?」
「まあ」
「手袋」
「いらない」
「でも」
「いらない」
少し間。
真白が言う。
「……さっきの、返さなくていい?」
「何を」
「百円」
「いいよ」
「じゃあ今度」
振り向かないまま言う。
声は普通。
でも、歩幅が少しだけ揃う。
それで十分だった。