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スーパーの立体駐車場。
夜の遅い時間。
ほとんど車がない。
真白は白線の上を歩いている。
落ちないように、というほどでもないが、踏み外さない。
アレクシスは少し後ろ。
両手をポケットに入れて、ゆっくり歩く。
「なんで線の上」
「特に理由ない」
「落ちたら?」
「落ちない」
真白はそのまま進む。
白線が途切れる。
少しだけ足を伸ばして、次の線に乗る。
「危ない」
「大丈夫」
でも少しだけ揺れる。
アレクシスが手を出す。
触れない距離。
「支える?」
「いらない」
「でも出してる」
「出してるだけ」
真白は一歩進む。
少しバランスを崩す。
ほんの少し。
その瞬間、手が触れる。
すぐ離れる。
「……ほら」
「今のは床が悪い」
「床のせい」
「床のせい」
次の白線。
また歩く。
駐車場の灯りが、少し冷たい。
コンクリートの匂い。
遠くでシャッターの音。
真白が止まる。
白線の上で止まる。
「ここで終わり」
「ゴール?」
「うん」
アレクシスが隣に立つ。
白線の外。
少しだけ距離。
「勝った?」
「何に」
「分からないけど」
「勝ってない」
真白は少しだけ笑う。
珍しく、はっきり。
「ただ歩いただけ」
「でも最後まで落ちなかった」
「途中で触った」
「一瞬」
「一瞬でも」
真白は少し黙る。
それから言う。
「……あれはノーカウント」
「そう?」
「そう」
車の方へ歩き出す。
今度は白線の外。
アレクシスが並ぶ。
さっきより近い。
「またやる?」
「やらない」
「なんで」
「寒い」
短く言う。
でも歩幅はゆっくり。
車の前で止まる。
鍵を出す。
ドアを開ける。
乗り込む前、真白が一度だけ白線の方を見る。
何も言わない。
エンジンがかかる。
暖房の音。
「次は昼?」
「やらないって」
「じゃあ夜だけ」
「……気が向いたら」
車が動く。
白線が後ろに流れる。
ただの線。
でも、少しだけ記憶に残る。