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#読み切り
ruruha
656
ゆうまる
121
人が増えるのは、一瞬だった。誰かが電話を切って、言う。
「来るって」
それだけで十分だった。
コンビニ裏の暗がりに、知らない顔が次々合流する。
同じ学校、違う学校、学年もバラバラ。
共通点は一つだけ。
遥を知っている、という前提。
「これ?」
「そう、それ」
「マジで噂通りだな」
囲まれる。
数を数える意味がない。
最初の一発は、合図みたいに軽かった。
肩。
次は腹。
蹴り。
「ほら、始まった」
「順番な」
殴られる。
蹴られる。
背中、脇腹、腿。
倒れそうになるたび、誰かが支える。
立たせる。
「サンドバッグは倒れねぇんだって」
「立たせろ」
拳が入る。
音が鈍く、乾いている。
「声出すな」
「近所迷惑」
遥の視界が揺れる。
でも、床には落とされない。
(倒れない)
(倒れさせてもらえない)
一通り終わると、誰かが言う。
「はい、次」
休憩はない。
「腕立て。今」
地面に手をつかされる。
「数えろ。聞こえる声で」
腕が震える。
一回ごとに、背中を蹴られる。
「腰落ちてる」
「ちゃんとやれ」
途中で崩れると、腹に蹴り。
「戻れ」
「最初から」
腹筋。
脚を押さえられる。
「はいはい」
「遅い」
笑い声。
空気椅子。
「壁使うな」
「手は前」
腿が焼ける。
時間の感覚が消える。
「まだ?」
「全然余裕だろ」
誰かがスマホを見る。
「十分経ってねぇ」
「甘いな」
膝が笑い始める。
「震えてる」
「キモ」
「落ちたらやり直し」
崩れ落ちた瞬間、背中を蹴られる。
「ほら。立て」
(……立て)
(動け)
命令が、頭の中で自動再生される。
誰かが言う。
「こいつさ、殴っても使っても壊れねぇんだよ」
別の声。
「便利だよな。人数増えても対応できる」
笑い。
「じゃ、次なにする?」
「まだ時間あるし」
その言葉で、遥は理解する。
これは終わらない。
区切りがない。
誰かの暇つぶしが、誰かの話題作りが、次々重なっていく。
遥は立たされる。
また。
(……数。数だけ、減らせ)
殴られながら、
蹴られながら、
動かされながら、
人として扱われていない
その事実だけが、ずっと残っていた。
コメント
1件
うわ……読んでいて息が苦しくなりました。描かれている暴力の生々しさと、何より「倒れさせてもらえない」「壊れないから便利だ」という言葉の重みが胸に刺さります。人としての尊厳を剥ぎ取られていく感覚が、淡々とした文体でリアルに伝わってきて、ただただやりきれない気持ちになりました。ruruhaさんは本当に巧みです。でも、遥が「数を減らせ」と自分に言い聞かせているところに、かすかな抗いの光も感じました……続きが気になります。