テラーノベル
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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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寄付のお願いに回る日、町の空はやけに明るかった。こういう日に限って、人の言葉は影を落とす。
サベリオたちはパルテナと一緒に、昔から祭りを支えてきた年配の支援者の店を訪ねていた。古い金物屋の奥には、磨かれた工具と、年季の入った椅子が並んでいる。店主の老人は背筋を伸ばして座り、こちらの話を静かに聞いていた。
最初はうまくいっていた。アルヴェの説明は簡潔で、ニカットの書類も揃っている。パルテナもいつになく真面目な顔でうなずいていた。
けれど、祭りの意義を語る流れの中で、彼は言ってしまった。
「昔の避難所の話も、今の若い人には正直ぴんと来ないところがありますし」
空気が止まった。
老人の顔から、表情だけがすっと消える。怒鳴られたわけではない。だからこそ、冷えた気配がはっきりわかった。
「ぴんと来ない、か」
老人は低く言った。
「そりゃそうだろう。流された家も、濡れた布団も、夜通し泣く子どもも、見ていない」
パルテナはそこでようやく、自分が何を踏んだか気づいたらしかった。
「いえ、そういう意味じゃ」
「そういう意味に聞こえた」
言い直そうとするほど、言葉が空回りする。パルテナの顔はみるみる青くなり、指先が落ち着きなく震えた。
サベリオは横から何か挟もうとした。けれど、その一瞬のためらいが遅かった。
老人は書類を机に戻した。
「今日は帰りなさい」
それだけ言われると、誰も食い下がれなかった。
店を出たあと、春の風はやわらかいのに、四人の足取りだけが重かった。少し先で立ち止まったパルテナは、振り向かないまま言った。
「俺、そんなつもりじゃなかった」
「わかってる」
サベリオはすぐに答えたが、声がやや硬くなってしまった。
パルテナは唇を噛んだ。
「若い人にも伝わるようにしたいって話をしたかっただけなんだ」
「でも、あの言い方じゃ切り捨てたように聞こえる」
ニカットの指摘はまっすぐだった。責めるためではなく、事実として置く言い方だった。
パルテナは何も言えなくなった。普段なら言い返すのに、その日は肩を落としたまま立っている。自分の失敗を、本人がいちばん深く受けているのがわかった。
サベリオの胸にも鈍い痛みが残った。前の周回で寄付の流れが止まった理由が、たぶんこれだ。見えていたのに、間に合わなかった。
春の陽射しの下で、パルテナの影だけがやけに濃く伸びていた。