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ゆぴ
54
スミレ
131

2,307
静かだった。
人の声も、足音も聞こえない。
遥は壁にもたれたまま、ゆっくりと目を閉じる。
熱のせいか、時間の感覚が曖昧になっていた。
ここに座り込んでから何分経ったのか。
それとも、まだ数十秒しか経っていないのか。
分からない。
胸の奥で、小さく息を吐く。
――まただ。
そんな言葉だけが浮かぶ。
特別なことではない。
学校でも。
家でも。
気づけばいつも、一人だった。
誰かに何かを頼ることは、ずっと前にやめた。
助けを求めても、望んだ言葉は返ってこなかった。
だから期待もしない。
期待しなければ、裏切られることもない。
そう思ってきた。
それなのに。
ふと、一人の顔が頭をよぎる。
日下部。
朝から何度も「大丈夫か」と聞いてきた声。
顔色を見ただけで、いつもと違うと気づいた目。
遥はゆっくり首を横へ振る。
駄目だ。
考えるな。
あいつまで巻き込むな。
自分と関われば、ろくなことにならない。
それは嫌というほど知っている。
だから距離を置いた。
避けた。
それが正しいはずだった。
なのに、胸のどこかでは、あの声を思い出してしまう。
「無理するな」
たったそれだけの言葉が、耳の奥に残って離れない。
遥は目を閉じた。
熱のせいか、それとも疲れのせいか、意識が少しずつ遠のいていく。
――大丈夫。
そう、自分に言い聞かせる。
誰かを待っているわけじゃない。
待ってはいけない。
そう思おうとするほど、胸の奥には説明のつかない感情だけが静かに残っていた。
コメント
1件
「期待しなければ裏切られることもない」——その一文がすごく刺さりました。遥の孤独の形が、熱に浮かされながら静かに語られていく感じがとても繊細で…。でも「無理するな」という日下部の言葉が耳の奥に残って離れない描写、あそこがこの話の光だと思いました。距離を取ろうとするほど、胸に残る誰かの温かさ。続きが気になります。