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ゆぴ
54
スミレ
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教室へ戻っても、遥の席は空いたままだった。
昼休みが終わってから、もうかなり時間が経っている。
日下部は黒板へ目を向けながらも、意識はまったく別のところにあった。
朝から様子がおかしかった。
廊下で会ったときも、立っているのがやっとという顔をしていた。
それでも遥は「平気」の一言で終わらせた。
あれが平気なはずがない。
授業が一区切りついたところで、日下部は席を立った。
「先生、ちょっと」
短く声を掛ける。
戻ってきた返事は素っ気なかった。
「そのうち戻るだろ」
その一言が、かえって胸騒ぎを強くした。
遥は、黙って姿を消すようなやつじゃない。
具合が悪くても、頼まれたことは最後までやろうとする。
だからこそ、戻ってこないこと自体がおかしかった。
教室を出た日下部は、遥が向かいそうな場所を一つずつ探し始める。
廊下。
階段。
視聴覚室。
印刷室。
どこにもいない。
最後に、人通りの少ない校舎の端へ足を向けた。
人気のない廊下は静まり返っている。
その静けさが、胸のざわつきをさらに大きくしていった。
校舎の端は静まり返っていた。
授業中ということもあり、人の気配はほとんどない。
日下部は足を止め、辺りを見回す。
胸騒ぎが消えない。
理由は説明できない。
ただ、遥なら誰にも言わず無理をする。
それだけは、何度も見てきた。
「……遥」
返事はない。
もう一度名前を呼ぶ。
やはり静かなままだった。
ふと、廊下の奥にある倉庫へ視線が向く。
普段なら気にも留めない場所だった。
だが、その日は違った。
扉の前で立ち止まり、取っ手へ手を掛ける。
動かない。
鍵が掛かっているのか、それとも何かが引っ掛かっているのか。
日下部は眉をひそめた。
もう一度、少し強く引く。
その時だった。
扉の向こうから、何かが擦れるような小さな音が聞こえた気がした。
聞き間違いかもしれない。
それでも日下部は迷わなかった。
「……遥?」
低く呼びかける。
返事はない。
しかし、その静けさがかえって嫌な予感を強くした。
日下部は扉から離れることをためらった。
だが、一人ではどうにもできない。
舌打ちすると、「待ってろ」と低く呟き、近くの職員を探して走り出した。
胸の中では、朝からずっと抱えていた違和感が確信へ変わりつつあった。
――頼む。
間に合ってくれ。
コメント
1件
あおいです🌷 「遥なら誰にも言わず無理をする。それだけは、何度も見てきた」——この一文に、今までの関係性がぎゅっと詰まっていて胸が痛くなりました。日下部の「頼む、間に合ってくれ」という祈りにも似た気持ちがひしひしと伝わってきて、続きが気になって仕方ないです。倉庫の向こうのあの擦れる音…どうか無事でいてほしい。 素晴らしい緊張感でした。更新ありがとうございます。