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翌朝、奈緒はいつもよりも遅めに起きた。

ここ最近ずっと眠れない日々が続いていたが、昨夜はぐっすり眠れたようだ。


部長の加賀に紹介された『CyberSpace.inc』からは、昨夜連絡が来た。

本当はもう少しのんびりしてから転職活動を始める予定だったが、何もしないでいると色々と考えてしまう。

こんな事なら早く仕事を再開した方がいいのではと思い、奈緒は来週『CyberSpace.inc』の採用面接を受けに行く事にした。



トーストとコーヒーだけの簡単な朝食を済ませると、奈緒はたまっていた家事を片付ける。

徹が亡くなってからは何もやる気が起きずに、家の中は散らかったままだった。


奈緒は洗濯物をベランダに干した後、いつもより念入りに部屋を掃除した。

掃除が終わると、今度はずっと先延ばしにしていた徹の私物を片付け始めた。

徹は定期的に奈緒の家に泊まりに来ていたので、部屋に私物をいくつも残したままだ。



電気シェーバー

シェービングローションとヘアトニック

古いノートパソコン

ダンベル

スウェットの上下に下着や靴下などの衣類

その他にDVDや本、雑誌等私物はかなりの数に上る。



これらは全て徹の実家へ送る予定なので、奈緒は一つ一つ段ボールに詰めていく。

少し前までは徹の私物を見るのもしんどかったが、今はなんとか荷造りが出来るようになった。

奈緒は全て詰め終わると、徹の両親への簡単な手紙を添えてから最後にガムテープで蓋をきっちりと閉じた。



その時奈緒の携帯が鳴った。

電話は奈緒の母・聡美(さとみ)からだった。



「もしもし、お母さん?」

「おはよう、奈緒。会社は昨日で終わりだったんでしょう? お疲れ様」

「うん、ありがとう」

「今は何をしてたの?」

「掃除とか洗濯とか。久しぶりに念入りにやったわ」



奈緒は徹の私物について母に言わなかった。言っても余計な心配をかけるだけだ。

その代わり母に報告したかった事を告げる。



「お母さん、婚約指輪はやっぱり見つからなかったわ」

「そんな事だろうと思ったわ」

「え? なんでわかったの?」

「当たり前じゃない。だって海は広いのよ。それにもし運よく打ち上がったとしても誰かが拾うに決まってるわ。それでも奈緒がどうしても探しに行くって言うから、母さん黙ってたの」

「なんだぁ、じゃあ言ってよ。あの日大雪で大変だったんだからね」

「フフッ、あんたは昔から頑固だから、母さんが言ったって聞かないでしょう?」



聡美は可笑しそうに笑う。



「確かに海へ捨てたのはやり過ぎだったって思ったわ。でもあの時はああでもしないと気が変になりそうだったんだもん……」

「わかってる。私だってね、もし徹さんが生きていたら言ってやりたい事が山ほどあるわよ。よくもうちの娘を裏切ってくれたわねって……」



聡美は大きくため息をつきながら続ける。



「それにね、私もあれから色々と考えたんだけど、やっぱり婚約指輪は返さなくてもいいんじゃない? まだ結納前だったんだし、指輪の事もご両親は知らないんでしょう?」

「うん、多分知らないと思う。でも前に何かで読んだのよ。婚約を解消したら指輪を返せって言われたって。だからもしもの為にって思ったのよ……」

「でももう無いんだから仕方ないわ。もし向こうのご両親が何か言ってきたらすぐに母さんに言いなさい。私が代わりに話してあげるから」



奈緒は母の心強い一言が嬉しくて、つい目頭が熱くなる。



「ありがとう……お母さん」

「それよりも、昨日メッセージに書いてあったのは本当なの? 部長さんが転職先を紹介してくれたって」

「うん、本当よ。IT系企業の経理の仕事なの。良さそうな話だから来週面接に行ってみる」

「そう、良かったじゃない。部長さんには最後まで親切にしてもらって、本当に有難いわね」

「うん。でね、もしそこに決まったら引っ越そうと思ってる」

「環境を変えるのは母さんも賛成よ。新しい場所で仕事に集中していればきっと時間が解決してくれるわ。奈緒には母さんがついてるんだから大丈夫よ!」



娘を励ます母親の言葉を聞き、奈緒の視界が徐々に滲んでくる。しかし泣いている事を悟られないよう奈緒はわざと明るく言った。



「お母さん、ありがとう!」

「うん。じゃあ母さんもうパートに行く時間だから。引越しが決まったらまた連絡ちょうだいね」

「わかった」



そこで奈緒は電話を切った。



その後奈緒は、先ほど荷造りした段ボール箱を玄関の脇へ運ぶ。

荷物は少しでも早く手放したかったので、この後買い物に行く際に送ってしまおうと思った。



出掛ける前、奈緒は徹の私物が消えた室内をぐるりと見回す。

その時の奈緒の表情は、どこか淋し気に愁いを帯びていた。

銀色の雪が舞い落ちる浜辺で

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ユーザー

婚約者の荷物の片付け😔 亡くなった理由が 理由だけに、辛いよね😢 指輪が無くなり 荷物も送り返し、転職や引っ越しに向けて準備する奈緒ちゃん。 心の回復迄にはまだ時間がかかるけれど.... 新しい職場で働き、新しい家で生活をしながら 少しずつ癒えていくと良いね🙏🍀✨

ユーザー

婚約者の遺した荷物の整理は中々しんどいだろうな😢 それに二股だったなんてショックだし虚しくとも亡くなってて真実すら聞けないし😭 新しい環境でいい出会いがあったり前向きになれますように🙏

ユーザー

生きていたら文句の一つでも言えたのに、亡くなってしまったお陰で何も言えず。。 複雑な心境だよね、奈緒ちゃん(๑•́ •̀๑) 徹のお母様は息子の二股を知っているよね。 知っているなら指輪返せどころか、こちらから慰謝料寄越せだよ。 婚約指輪はどっかの安物ムーンストーンと一緒に海の底でお眠り下さいw

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