テラーノベル
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玄関のドアが閉まる音と同時に、遥は小さく息を吐いた。
学校では何とか一日を終えた。
けれど、気は休まらない。
家に帰っただけだった。
リビングには晃司と沙耶香、怜央菜、颯馬が揃っていた。
テレビはついている。
笑い声が流れている。
その音だけが、この家の空気と妙に噛み合っていなかった。
「遅い」
晃司が時計を見る。
「寄り道か」
「してない」
「返事」
「……してません」
鞄を肩から下ろし、遥は玄関に置いた。
部屋へ向かおうとする。
「どこ行く」
足が止まる。
「部屋」
「誰がいいって言った」
振り返る。
晃司はソファから立ち上がり、ゆっくり遥の前まで歩いてきた。
「最近、学校でずいぶん好き勝手やってるらしいな」
「……何の話」
「質問してるのはこっちだ」
答えようとした瞬間、頬に衝撃が走る。
身体が横へ流れ、肩が壁へぶつかった。
耳の奥がじんと鳴る。
「質問に質問で返すなって、何回教えた」
遥は壁に手をつき、体勢を立て直した。
「……知らない」
「知らない?」
晃司は笑わない。
無表情のまま、遥を見ている。
「学校で誰と話した」
「……」
「答えろ」
遥は黙った。
次の瞬間、腹に鈍い衝撃が入り、息が詰まる。
膝が折れ、その場にしゃがみ込んだ。
咳き込みながら床を見つめる。
颯馬が近づいてくる。
「最近さ」
しゃがみ込んだ遥の髪を掴み、無理に顔を上げさせる。
「顔に出るんだよ」
「……っ」
「黙ってても分かる」
指先が離れる。
そのまま遥は床へ崩れた。
沙耶香はため息をつきながら飲み物を口に運ぶ。
「毎回こうなるよね」
「余計なことするから」
怜央菜も冷めた目で見ているだけだった。
誰も止めない。
止める理由がない。
遥だけが、この家ではいつも責められる側だった。
晃司は見下ろしたまま言う。
「今日は飯はあとだ。
先に頭を冷やせ」
遥は返事をしない。
返事を待たずに、晃司は踵を返した。
リビングには再びテレビの音が流れ始める。
まるで何事もなかったように。
遥は床に手をつき、ゆっくり身体を起こした。
頭が重い。
呼吸が浅い。
さっきから妙に寒気がする。
それなのに額には汗が浮かんでいた。
風邪かもしれない。
そう思ったが、この家ではそんなことを口にしても意味はない。
「甘えるな」の一言で終わる。
遥はふらつきながら立ち上がり、誰にも気づかれないよう壁に手を添えて歩いた。
その足取りは、自分で思っているよりずっと不安定だった。
コメント
1件
うわ……読んでて胸がぎゅーってなったよ。玄関の音だけで緊張が走るの、日常のここまで細かい描写で伝わるのがすごい。誰も止めない、気にしない、その空気がもう一番怖いね。最後の方の「風邪かもしれないって言っても意味ない」ってとこ、諦めが滲んでて切なかった。遥くんの感情が全部地の文で静かに語られてるのが染みる…次も読みたい。
ゆぴ
54
スミレ
131

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