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#読み切り
ruruha
656
ゆうまる
121
朝のホームルーム。
教室はもう、
誰が何をするか決まっている。
席は壁際。
机は半歩だけ後ろ。
黒板係も日直も、
遥の名前は最初から入らない。
教師が出席簿を開く。
「……遥」
返事をする。
「はい」
一瞬だけ、
教師の目が教室をなぞる。
それから、
何も言わないまま次へ行く。
「次」
それで終わる。
配布物。
「前から回せ」
紙が流れる。
止まる。
飛ばされる。
教師は見ている。
見ているが、何も言わない。
一度だけ、言う。
「足りない人は自分で取りに来い」
教室が少し笑う。
遥は立ち上がる。
前まで歩く。
誰かが足を出す。
わざとではない顔。
躓く。
笑い。
教師は言う。
「騒ぐな」
それで終わる。
グループワーク。
「四人組作れ」
一瞬で輪ができる。
残る。
教師は黒板を見たまま言う。
「余った人は……」
少し間。
「見学でいい」
見学。
教室が静かに笑う。
「適材適所」
「邪魔にならない」
「平和」
小さな声が重なる。
教師は聞こえている。
聞こえているが、板書を続ける。
授業中。
消しゴムが飛ぶ。
背中に当たる。
教師は振り返る。
「静かにしろ」
それだけ。
誰に向けてかは言わない。
もう一度飛ぶ。
今度は首。
教師は言う。
「集中できないなら廊下に出ろ」
視線が集まる。
遥に。
「……俺?」
誰かが小さく言う。
「お前だろ」
教師は否定しない。
遥は立つ。
廊下に出る。
ドアが閉まる。
中から笑い声。
抑えた笑い。
慣れた笑い。
昼休み。
教師が近くを通る。
遥の机は何もない。
弁当もない。
教師は一度だけ見る。
「食べないのか」
「……うん」
「体調管理しろ」
それだけ。
通り過ぎる。
掃除。
ほうきを持つ。
ゴミ箱が投げられる。
中身が床に散る。
「拾っとけ」
「お前の仕事」
「存在がゴミだから適任」
笑い。
教師が入ってくる。
一瞬だけ状況を見る。
「早く終わらせろ」
それだけ。
放課後。
部活の声が外から聞こえる。
廊下は少し静か。
教室の後ろ。
誰かが言う。
「今日、残って」
「え?」
教師が戻ってくる。
一瞬だけ視線が合う。
何も言わない。
見なかったことにする。
見えているのに。
遥はそのとき、初めて気づく。
もう全員、役割が決まっている。
殴るやつ。
笑うやつ。
見てるだけのやつ。
何も言わないやつ。
そして、
何をされても当然のやつ。
それが自分。
「先生」
思わず呼ぶ。
教師が振り返る。
「なんだ」
少しだけ、言葉が出ない。
「……いえ」
教師は頷く。
「問題起こすなよ」
それだけ言って出ていく。
教室に沈黙が落ちる。
それから、誰かが笑う。
「ほら」
「言わないじゃん」
「助けてくださいって」
「言えないんだよ」
「もう無理だろ」
「ここまで来たら」
遥は机を見ている。
木目。
傷。
落書き。
その中に、小さく書かれている。
「邪魔」
いつ書かれたか分からない。
でも、ずっとあった気がする。
頭の中で、何かが静かに折れる。
音はしない。
ただ、説明する意味が消える。
何を言っても同じ。
何をしなくても同じ。
教師も含めて、
もう全員が理解している。
“そういう役”
として。
遥は思う。
自分は
いつからこうなった?
最初から?
途中から?
分からない。
ただ、
ここではもう変わらない。
教室の中での自分は、
名前でも人でもなく、
ただの役割。
誰かが言う。
「今日さ」
「外行く?」
「いいね」
「連れてく?」
「当然」
笑い。
遥は何も言わない。
言葉が浮かばない。
怒りも、
悔しさも、
もう形にならない。
ただ、
空洞みたいな静けさだけが
中に広がっていく。
コメント
1件
うわ…読んでて胸が痛くなったわ……。この学校、教師も含めて全員が“遥”をいじめの対象として黙認してるのが本当に怖い。とくに「見学でいい」「問題起こすなよ」って教師のセリフが無意識の加害者すぎて、リアルな無関心の暴力を感じた。説明する意味が消えるって感覚、すごく分かるし、読んでて息が詰まった……。早くこの空気をぶち破ってくれる展開が来てほしいわ。