放課後の教室は、蛍光灯の白い光だけが残っていた。
ドアが開いて、足音が一歩ずつ近づく。
「……先のこと考えると、何も浮かばなくて。
やりたいことも、なれるものもない」
蓮司は椅子の背に体を預け、片足を机に乗せたまま軽くうなずく。
「未来が真っ白ってやつか。オレも似たようなもんだ」
「え、蓮司も?」
「うん。大人はさ、将来の夢とか決めとけって簡単に言うけど、
こっちはまだ途中だろ。
今見えなくても別にヘンじゃない」
来訪者は少し考えるように視線を落とした。
「でも周りは、もうやりたいこと見つけてて。
置いていかれてる感じがして」
「焦るよな。
でも未来って、選んでから形になるわけじゃない。
勝手に混ざって、動いて、あとから『これだった』って気づく」
蓮司は窓の外を指さす。
「ほら、空もこの時間は色が決まってないだろ。
オレンジとも青ともつかない。
でもそれが一番きれいなんだよ」
来訪者は窓の向こうに目をやる。
「……決まってない空が、きれい」
「そう。
人も同じで、決まってない時期こそ大事。
何もないようで、実は吸い込んでる。
好きな音とか、匂いとか、意味ない話とか、全部さ」
「吸い込んでる……か」
「だから無理に答え探さなくていい。
今日の自分が何を感じたか、それで十分」
来訪者の表情が少しだけほどけた。
「なんか、今はこれでいい気がしてきた」
蓮司はにやりと笑う。
「それでいい。
未来なんて、勝手に転がってくるから、
今は今日を拾っとけばいい」
窓の外、暮れきらない空がゆっくりと色を変えていった。