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しずまる@Sくんに卒業式告白!
のまめ
153
チャイムが鳴った。二度。間を置いて、もう一度。
悠翔は手の中のペンを見つめていた。指先の動きが止まり、視線がそのまま硬直する。カーテン越しに漏れる午後の光が、室内に均等に広がっている。すべてが穏やかに見える分、それが逆に恐ろしく感じられた。
もう一度、チャイムが鳴った。今度は、三回。短く、間隔を置かずに。
——このリズムを、知らないはずがない。
扉を開けると、陽翔がいた。何も言わず、にやりと笑った。
「久しぶり、じゃないよな。毎日見てるし」
言いながら、彼は勝手に靴を脱ぎ始めた。つづいて、蓮翔が悠翔の横をすり抜け、手にしたコンビニ袋をカウンターに置く。
「差し入れ。食えよ、お前どうせ、まともなもん食ってねぇだろ」
そして最後に蒼翔。手ぶらで、無言で、だが目だけがじっと悠翔の顔を見ていた。
「……来るって、聞いてない」
声が、思ったよりもかすれていた。喉の奥の空気が重く、言葉が抜けにくい。
「聞かれても、言うわけないだろ?」
陽翔が答え、部屋の隅にある椅子に座った。堂々とした動き。まるでここが自分の部屋であるかのように。
蓮翔は冷蔵庫を勝手に開け、残っていた水のボトルを取り出して飲んだ。
「ほんとに何もねーじゃん。お前、バイトの金どこに消えてんの?」
蒼翔は何も言わない。ただ、悠翔のスマホが置かれた机に視線を落とした。その沈黙に、悠翔の背筋が凍る。
「まだ、鍵かけてるんだ。意地だな」
陽翔が口角を上げて笑った。まるでそれが、可愛げのある抵抗であるかのように。
「なあ、教授の名前、何て言ってたっけ?」
「メールで送ってこなかったっけ、スクショ」
蓮翔のその言葉に、蒼翔がわずかに目を細める。悠翔のスマホに指が伸びる。
悠翔は、咄嗟にその手を押さえた。
「……やめて」
声が震えていた。
だが、蒼翔は動じない。逆にそのまま手を乗せたまま、じっと悠翔の目を見た。
「やめたら、何か変わんの?」
言葉は静かだった。優しさすら帯びていた。だが、その奥に潜むものを、悠翔は誰よりも知っている。
「お前、そういうとこ、変わんねぇよな。喉まで何か詰まらせてんのに、吐かねぇ。……だから、こうなんだよ」
陽翔が足を組み替えながら言った。その声の軽さが、かえって重い。
「……今日のは、まだ上げてない。だけど、もう見てるやつはいるよ」
蓮翔がスマホを弄りながら呟く。まるで天気の話でもするように。
悠翔の視界が、一瞬だけ狭くなった気がした。肩が沈む。重力が、急に増したようだった。
「で、どうする? 今日も撮る? それとも……見せてほしいって人、いるからさ、そっち回す?」
蒼翔が言った。何気ない口ぶり。けれどその一言が、悠翔の中で何かを決壊させそうになる。
「……帰って」
それは、拒絶ではなかった。懇願だった。
彼は分かっていた。帰らないことも、帰らせられないことも。
陽翔が、立ち上がる。近づいてきて、肩を軽く叩いた。
「頑張ってんな。でもさ、無理すんなよ? お前が壊れたら、つまんなくなるだろ?」
蓮翔が水のボトルを戻し、扉の前で蒼翔が振り返る。
「ちゃんと喉、開けとけよ。……撮るとき、汚い声だけはやめてほしいから」
そして三人は、来たときと同じように何気なく去っていった。
部屋の扉が閉まる。
ようやく、世界の音が戻ってきた気がした。
悠翔は、その場に立ったまま動けなかった。
彼の時間だけが、また静かに、誰にも知られず壊されていた。
コメント
1件
うわ……読んでて息が止まった。陽翔たちの「日常的に侵入してくる」感じ、笑顔の裏にある支配がぞっとする。特に「ちゃんと喉開けとけよ」の一言、優しげな暴力ってこれだよね…悠翔の時間が誰にも知られず壊されていく描写、すごく刺さりました。ruruhaさんの空気の描き方、毎回リアルで怖いです。