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放課後。
空き教室。
日下部は机に肘をついていた。
隣の席には開きっぱなしのノート。
本当は課題をやるつもりだった。
まだ一文字も書いていない。
ドアが開く。
「お疲れ」
「……お疲れ様です」
生徒が入ってくる。
日下部はノートを閉じた。
「で?」
生徒は少し迷う。
「なんか」
「うん」
「私、好きなことないんです」
日下部は黙る。
「ゲームも普通、アニメも普通、スポーツも普通」
少し間。
「周り見てると、めちゃくちゃ詳しい人とかいるじゃないですか」
「いるな」
「何時間でも話せる人とか、ずっと続けてる趣味ある人とか」
視線が落ちる。
「私、そういうの無くて」
教室が静かになる。
「将来の夢とか聞かれても困るし、やりたいことも分かんないし」
短く息を吐く。
「何か一個くらい、夢中になれるものが欲しいんです」
日下部は少し考える。
「欲しいのは夢中になれるものか?」
生徒は止まる。
「え」
「夢中になってる自分じゃなくて?」
生徒は黙る。
窓の外から笑い声が聞こえる。
「……そっちかもしれません」
小さく言う。
「周り見てるとみんな何か持ってる気がして」
日下部は頷く。
「持ってるやつは目立つからな」
短く言う。
「ギター毎日弾いてるやつ、野球しか頭にないやつ、推しの話になると止まらないやつ」
生徒は苦笑する。
「います」
「いる」
日下部は続ける。
「でも」
少し間。
「そういうやつばっか見てる」
生徒は顔を上げる。
「え」
「何にも夢中じゃないやつなんてクラスに普通にいる」
生徒は止まる。
「でも、ただ話題にならないだけ」
短く言う。
教室に少し沈黙が落ちる。
「じゃあ」
生徒は言う。
「今のままでもいいんですか」
日下部は少し考える。
ruruha
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ruruha
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ruruha
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「別に悪くない」
即答だった。
「ただ」
生徒は待つ。
「何もない状態で何か見つかるの待つのは微妙」
生徒は首を傾げる。
「どういうことですか」
「夢中になるものって探してる時より」
少し間。
「たまたま触った時に始まること多い」
生徒は黙る。
「最初から人生変わる趣味だって分かるやつ」
日下部は言う。
「ほぼいない」
生徒は少し笑う。
「確かに」
「だから」
日下部は続ける。
「好きなことがないんじゃなくて、まだ当たってないだけかもしれない」
生徒は視線を落とす。
「私、ずっと焦ってました」
「何歳までに見つけろとか無いしな」
短く返る。
生徒は少し考えたあと立ち上がる。
「夢中になれるものがある人が羨ましかったです」
「その人も最初から夢中だったわけじゃない」
日下部は言う。
「たぶん、暇つぶしから始まってる」
生徒は笑った。
「それくらいでいいんですかね」
「それくらいが多い」
ドアが閉まる。
夢中になれるものを持っている人は輝いて見える。
でも、その多くは最初から運命みたいに出会ったわけじゃない。
何となく触ったものが、後から特別になっただけかもしれない。
コメント
1件
このエピソード、すごく沁みました。「夢中になれるものが欲しい」じゃなくて「夢中になってる自分が欲しい」って視点の反転が鮮やかで、思わず息を止めてしまいました。日下部先生の「たまたま触った時に始まること多い」「暇つぶしから始まってる」という言葉、重みがあるのに軽やかで、読んでる自分自身の焦りがふっと和らぐ感じがしました。毎週楽しみにしています、次も待ってますね!