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「おおっ! 誰かと思ったら高西くんか! プロ野球選手として立派になったなぁ……。息子の親友だったら全然構わんよ。で、坂口さんは……高西くんの彼女?」
個人タクシーの運転手である享の父親が、感慨深い面差しを映し出す。
「オヤジさん、ご無沙汰してます。俺、今年からヨグルトスパローズに移籍したんすよ。坂口は──」
「くっ……クラスメイトですっっ!! ……って、挨拶が遅れてすみません。南伊くんと高一の時、同じクラスだった坂口志絵と申しますっ」
「こちらこそ、享が高一の時はお世話になりました。大人になっても、こうやって仲良くしてくれて、ありがとうございます。ではさっそく行きましょうか」
「インチョー、亜美、みんな、申し訳ないけど先に帰るね。また会いましょう!」
「元一年八組の諸君、また来年会おうな! 享、また連絡するわ。じゃあなっ」
丁寧な対応をしてくれたインチョーの父親に、志絵は、賢とともにクラスメイトに挨拶をすると、店の前に停車してある白いセダンのタクシーに乗り込む。
助手席に乗った賢が、襟元に下げたままのダテメガネを掛け、シートベルトを着用させた。
「それでは出発しますよ」
インチョーの父親がアクセルをゆっくり踏み、タクシーは緩やかな速度で『居酒屋フットボール』を後にした。
「高西くんと坂口さんの話は、たびたび息子が話題にしているんですよ。享の妻、亜美さんも高一で同じクラスだったし、息子は高校時代、すごく楽しかったんでしょうねぇ」
車内では、インチョーの父親がステアリングを握りながら、前方に視線を向けている。
「俺も高校時代は楽しかったっすよ。野球部の練習はキツかったけど、人に恵まれた高校生活でしたね」
「坂口さんは高校時代、何か部活をやってたんですか?」
「私は吹奏楽部でした。部活をやりたくて藤森学園を選んだので……」
「なるほど。坂口さんと亜美さんは三年間、一緒に青春時代を過ごしてきたんですね」
タクシーは中央高速道路から首都高速道路に入り、五号線の飯田橋で降りると、外堀通りを御茶ノ水方面に向かって走行している。
水道橋駅前の交差点を左折し、白山通りに入ると、春日町交差点の少し手前で、賢が『ここで大丈夫です』とインチョーの父親に声を掛けた。
「お二方、また享の店に顔を出してやって下さい。ありがとうございます」
「オヤジさん、ありがとうございました」
「南伊くんのお父さん、遠い所までありがとうございました。帰り気を付けて下さいね」
それぞれ挨拶を交わし、賢がタクシー代を支払うと、インチョーの父親が手を振った後に車を発進させ、志絵と彼はお辞儀をして見送る。
賢と二人きりになった志絵は、むず痒い気持ちになりつつソワソワしていると、彼が小さな肩をさりげなく触れてきた。
「さてと。時間も大分遅いし…………総長の自宅まで送ってくよ」
コメント
1件
めっちゃいい回やったわ…! インチョーの父ちゃんがタクシー運転手で昔の話に花咲かせる流れ、温かみあってじーんときた。 志絵が「クラスメイトですっっ!!」って全力否定するところ、照れ隠しが可愛すぎて草。笑 最後の賢の「総長の自宅まで送ってくよ」ってセリフ、さりげない優しさが最高やな…二人の距離感がじわじわ縮まってくの、めっちゃ好き。