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それから、美味しそうな料理が次々と運ばれてくる。

シーフードメインのスペイン風イタリア料理はどれも絶品だった。


その中でも特にムール貝とワタリ蟹のパエリアと鯛のポワレ・レモンバターソースが奈緒は気に入った。

どちらもほっぺたが落ちそうなくらいに美味だ。


美味しい料理を楽しみながら二人の会話は弾んだ。

特に奈緒が興味を持ったのは、省吾が会社を起ち上げた頃の話だ。


今の会社の前身は、省吾が大学時代に公平と二人だけで作った小さな会社だった。

二人が大学卒業すると、その会社に徐々にスポンサーがつき始める。そして少しずつ大きくなっていく。

省吾の斬新なアイディアはどれも時代の流れにマッチし、やがて投資家達の目に留まるようになる。

そして堅実経営を貫く省吾の姿勢は投資家達の信頼を勝ち取り、更なる資金援助を受け大企業へ成長した。

そこに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。

いくつもの困難が省吾達を待ち受けていたが、若さゆえの勢いと情熱でなんとか乗り越える事が出来たと省吾は笑う。

奈緒はそんな省吾に対し、尊敬のような気持が沸き上がってくるのを感じていた。



(0から始めた会社をここまで大きくするなんて……やっぱり彼は凄い人なんだわ)



奈緒はこの時自分は凄い人のもとで働いているのだという事を実感する。



その後、話題は奈緒の子供時代の話へと移っていった。

話の中で、おとなしいイメージの奈緒が、実は子供時代しっかり者だったという事が判明する。

小学生時代にはいじめられている子を助けたり、グループ行動ではいつもリーダーシップを発揮する。

その為、学級委員やクラス委員に推薦される事も多く、女友達からはいつも頼りにされる存在だった。



「へぇーそれは意外だなぁ」

「フフッ、私、結構気が強いんですよ」

「見た感じはそう思えないのになぁ……。あ、だから指輪を海に捨てたのか」

「それとこれは関係ないですっ」

「いや、気が強いからカーッとして捨てたんだ! 絶対そうだ!」

「違いますっ! あ、でもたまに勢いに任せて変な行動をしちゃう時はあったかな?」

「ほらみろ。やっぱりそうじゃないか」



そこで二人は声を出して笑った。



ちょうどその時日没がクライマックスを迎えた。

空と海が燃えるようなオレンジ色に染まり海へ向かって美しいグラデーションを魅せる。

太陽は徐々に高度を下げ海の向こう側の建物の間に沈み始める。

その瞬間、一筋の光が海面に一本の道を作った。

光に照らされた海の道は、宝石のようにキラキラと輝き二人がいるデッキまで続いていた。

一面オレンジ色に染まっていた空は、太陽が姿を消すと共に徐々に深い群青色へと変わっていった。



(なんて神秘的なの……)



奈緒は感動のあまり言葉にならない。

群青色がこんなにも深く美しい色だとは知らなかった。



「深みのあるブルーが綺麗だな」



省吾の一言に奈緒は驚く。

今省吾は、奈緒が思っていた事と同じ事を感じていたようだ。



「本当に綺麗……」



二人は目の前で自然が紡ぎ出す色彩の変化を、ただ静かにじっと見守っていた。



その時、奈緒は気付いた。

ここしばらくの間、自分の感情が一切乱れていない事に。


徹の事故以来、様々な感情が沸き上がり入り乱れて奈緒の心はかなり疲弊していた。

もちろん夜も眠れない日々が多かった。

しかし転職してからは、新しい環境に慣れる事に必死で一切余計な事は考えなくなっていたし、夜もぐっすり眠れる。



その時奈緒の脳裏にまたあの言葉が蘇った。



『時薬』



(時間だけ? 時間だけが私を救ってくれたの?)



ふと奈緒が前を見ると、そこには省吾がいた。



省吾は先ほど運ばれて来たデザートを食べている。

一口食べた後、参ったなという顔をして奈緒に言った。



「俺は結構甘党なんだけど、クリーム系は全部は無理だな。奈緒、半分食べて」



省吾は苦笑いをしながらデザートの皿を奈緒に差し出す。

そこで奈緒はハッと我に返った。



「えっ? い、いいの? じゃあいただきます」



奈緒は差し出されたクリームたっぷりのケーキを、半分切り分けて自分の皿に載せる。

そしてすぐに頬張った。


そのケーキは、生クリームにマンゴーが載ったショートケーキだった。

口に入れた瞬間、上品な甘さがふわっと口の中で広がり奈緒を幸せな気持ちにさせる。


ケーキを食べながら奈緒はもう一度省吾の顔を見た。

その時、奈緒の視線の先には、



「甘過ぎて参ったな―」



と微笑む省吾がいたので、奈緒はハンサムな省吾の顔をじっと見つめる。


すると奈緒の視線に気づいた省吾が言った。



「ん? どうした?」

「ううん、なんでもないです」



奈緒は慌てて返事をすると、再び甘いケーキを口に入れた。



(この穏やかで幸せな時間がいつまでも続きますように)



奈緒は満たされた気持ちのまま甘い甘いケーキを頬張ると、無意識にそう祈っていた。

銀色の雪が舞い落ちる浜辺で

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