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夜の街は、昼とはまるで違う顔をしていた。
コンビニの明かりが無駄に眩しく、どこかのビルの隙間からは安酒の匂いが漂ってくる。
遥はポケットに手を突っ込み、歩道橋の下にたむろする不良グループの方へ、わざと足を向けていた。
笑い声、タバコの煙、下品な音楽。
全部が「関わるな」と告げているのに、身体は勝手に近づいていく。
――どうでもいい。
どうなってもいい。
あの夜から、胸の中に穴が空いたままだ。
日下部の顔が浮かんでは消える。
「追ってきてくれる」なんて、そんな甘えはもう許さない。
だったらいっそ、自分から壊しに行けばいい。
「おい、チビ。なに見てんだ」
一人が声をかけてきた。
遥は鼻で笑った。
「別に。……混ぜろよ」
一瞬、空気がざらつく。
相手の笑いが、不気味に広がった。
「は? いい度胸じゃん」
腕を引かれ、乱暴に輪の中に押し込まれる。
酒瓶が差し出された。
拒む理由はなかった。
喉が焼けるような液体を流し込み、わざと咳き込んでみせると、笑い声が弾けた。
――これでいい。
俺なんて、どうなっても。
「もっと飲めよ」
「根性あんじゃん、ガキのくせに」
言葉の刃に、妙な安心を覚えた。
殴られたっていい。蹴られたっていい。
その痛みで、空っぽを埋められるなら。
喉の奥が熱くなる。
笑いながら、泣きそうだった。
――これでいい。
俺は壊れていけばいい。
そうすれば、きっと確かめられる。
「それでも、おまえは追ってくるのか」
その答えを欲しがりながら、遥は夜の闇に目を逸らした。