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仕事を切り上げたのは、空が少しだけオレンジに変わる頃だった。
真白が椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。
「終わった……」
「お疲れ」
アレクシスは画面を閉じ、眼鏡を外す。
「買い物、行く?」
「行く。冷蔵庫、何もない」
それは半分正しく、半分言い訳だった。
上着を着て外に出ると、昼よりも空気が冷たい。
夕方の住宅街は、どこか音が少ない。
「この時間、好き」
真白が言う。
「どうして?」
「一日が終わる途中だから」
「途中?」
「まだ夜じゃないし、もう昼でもない」
アレクシスは少し考えてから頷く。
「確かに、境目だな」
スーパーまでは歩いて十分ほど。
店内は思ったより人がいて、カゴを持つ腕が時々ぶつかる。
「鍋、どう?」
「いい」
「簡単なの」
「真白基準の?」
「失礼だな」
野菜売り場で立ち止まり、二人で覗き込む。
「これ、安い」
「傷んでない?」
「……ぎり」
「ぎりはやめとけ」
結局、無難なものを選ぶ。
レジを済ませ、袋を提げて外へ出る。
手袋越しに、持ち手が冷たい。
「ちょっと遠回りしよ」
真白が言う。
「寒くなるぞ」
「だからいい」
遠回りといっても、大した距離ではない。
街灯が一つずつ点き始めるのを眺めながら歩く。
「今日は、割とちゃんと働いた気がする」
「主観的評価だな」
「自己肯定大事」
「それはそう」
少し沈黙が続く。
でも、気まずくはない。
「……さ」
真白が小さく言う。
「こういうの、特別じゃないのがいいね」
「買い物?」
「うん。一緒に行って、帰るだけ」
アレクシスは袋を持ち直す。
「特別にすると、続かない」
「だよね」
家が見えてきて、二人とも歩く速度が自然に揃う。
玄関を開けると、外の冷気が一気に遮断された。
「寒かった」
「でも、悪くなかった」
「うん」
買ったものをキッチンに置き、コートを脱ぐ。
「じゃあ、鍋の準備」
「手伝う」
何でもない夕方の寄り道。
それが今日の締めくくりとして、ちょうどよかった。