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相談室の扉が開き、男子生徒が少し落ち着かない様子で入ってきた。椅子に座るなり、視線を泳がせてつぶやく。
「……周りのやつらって、ちゃんと“これが好き”ってものがあるんですよね。部活でも、趣味でも。俺だけ、特に夢中になれるものがなくて……焦ります」
蓮司は机に肘をつき、彼の言葉を静かに受け止める。
「焦るってことは、見つけたいって気持ちがあるんだろ」
「……まあ、そうですけど。周りが楽しそうにしてるの見てると、自分が空っぽみたいで」
蓮司は少し笑みを浮かべた。
「空っぽってのは、まだスペースがあるってことだ。いろんなものを詰め込める余裕があるってことさ」
男子生徒は目を瞬かせる。
「好きなことって、突然“これだ!”って決まるんじゃなくて、ちょっと気になったことに手を伸ばしてみて、その中から残ったものがそうなるんだ。だから、今は“空っぽでいい時期”なんだと思う」
彼は黙り込んだまま、少し考えているようだった。
やがて、小さく口を開く。
「……試しに、いろいろやってみてもいいってことですか」
「ああ。見つからないことを不安に思うより、“探してる途中なんだ”って思った方が前に進める」
男子生徒の顔に、わずかに安堵の色が浮かんだ。
「……なんか、少し気持ちが軽くなりました」
「なら十分だ」
その背中は、来たときよりも少しだけ前向きに見えた。