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静かな室内に、軽いノックの音が響いた。
「……あの、話を聞いてもらえますか」
蓮司はペンを回しながら、顔も上げずに応じる。
「座って」
生徒はそっと椅子に腰を下ろし、視線を床に落としたまま小さくつぶやく。
「友達との距離が、うまく取れなくて……」
「どういう風に?」
蓮司の声は穏やかで、答えを急かすものではなかった。
「近づきすぎると重いと思われる気がして、離れすぎると冷たいと思われる。結局、どっちも怖くて……」
蓮司はペンを置き、肘を机につけたまま視線を向ける。
「……その迷いは、相手を大事に思ってるから生まれるんだと思う」
生徒は小さく息を吐く。
「でも、どうしてもぎこちなくなって、話すことも笑うことも遠慮しちゃうんです」
「無理に変えようとしなくてもいい」
蓮司はゆっくり言葉を選ぶ。
「少しずつ、自分が心地いい距離を探せばいい。相手の反応を見ながら、自分の気持ちを確認して」
生徒は机に手を置いたまま、黙って聞いている。
「小さなことでも、少しずつ確かめていくんですね」
「ああ。すぐにうまくなる必要はない。迷う時間も、関係の一部だと思って」
長い沈黙のあと、生徒は顔を上げ、弱く微笑んだ。
「……なるほど、少し考え方が変わった気がします」
蓮司は軽く頷き、ペンを回す手を止めない。
「焦らなくていい。距離感は決められた答えじゃなくて、二人で作っていくものだから」
窓の外で風が揺れ、カーテンが柔らかく揺れる。
室内には、言葉にならないままの不安もあるけれど、少しだけ方向が見えた空気が漂っていた。