コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後、夕焼けのオレンジが町を染めていた。
「よーし、帰るか!」
と元気よく飛び出した大地だったが、数十メートルも進まないうちに、ガタガタと怪しい音。
「え、なんか後ろがぺしゃってる!」
自転車を降りて後輪を触ると、タイヤがふにゃり。完全にパンクだ。
「おい、またネタかよ」
隼人が呆れ顔で近づく。
「いや、さすがにこれは俺のネタじゃない!」
大地は両手を広げて抗議する。
そこへ颯爽と現れたのは柊。バスケ部帰りのジャージ姿が夕陽に映える。
「どうした、大地?」
「パンクっぽい」
「工具あるから見てみるよ」
柊は鞄からスッと工具セットを取り出し、手際よく自転車をひっくり返した。
「え、そんなの持ち歩いてるの!?」
「部活の帰りにパンク多いから、常備してる」
柊の落ち着いた声に、大地は目を丸くする。
「柊ってマジ頼れる〜。なんかドラマの王子様みたい!」
その一言に、隼人の眉がピクリ。
「俺も直せるし!」 と口を挟むが、柊はタイヤを外しながら笑顔で「じゃあ空気入れる係頼むよ」とあっさり。
隼人は空気入れを受け取りつつ、なんとなく面白くない。
その様子を少し離れた場所から見つめる二人――萌絵と涼。
「嫉妬イベント、きたぁ!」
萌絵が小声で身を乗り出す。
「レア隼人、観測中」
と涼はスマホを構えた。
「ほら、もうすぐ直るよ」
柊の言葉どおり、数分で修理完了。大地は両手を合わせて感謝する。
「柊、ありがとう!神!」
「気にすんな。安全運転しろよ」
爽やかな笑顔を残し、柊は手を振って去っていった。
「……なあ大地」
柊の背中が見えなくなったころ、隼人がぼそり。
「はいはい?」
「次、パンクしたら俺に言えよ」
「え、でも柊めっちゃ早かったじゃん」
「うるさい、俺だってできる!」
顔をそむけた隼人の耳が、ほんのり赤い。
「え、なにそれ。ヤキモチ〜?」
「ちがっ……!」
大地はニヤリと笑い、自転車を押して並んだ。
夕焼けの道に、二人の影が少しだけ近づいて重なった。