テラーノベル
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食事を終えて楽しい時間を過ごした夏帆は、片づけを申し出たものの、透也にやんわりと断られた。
「夏帆ちゃんはソファでゆっくりしてて。片づけが終わったらコーヒー淹れるから」
「すみません。じゃあ、お言葉に甘えます」
夏帆はソファへ移動し、ポケットから携帯を取り出した。
画面を見ると、通知ランプがチカッと光っている。
(え……もしや駿介から?)
そんなはずはなかった。
なぜなら、彼からのメッセージを受け取った翌日、夏帆は駿介のアドレスを着信拒否にしていたのだ。
よく見ると、メッセージを送ってきたのは、駿介を寝取った後輩の結城紗英だった。夏帆は驚く。
「は? なんなの?」
思わず声が漏れた。
「どうしたの?」
「あっ、いえ……なんでもありません」
「そう? それならいいけど」
透也が片づけに戻ると、夏帆は改めて紗英のメッセージに目を通した。
【お久しぶりです。お元気ですか~? こちらは、先輩の代わりに入った方が、とっても仕事ができて気配りも上手な素敵な方だったので、皆でほっとしているんですよ~♡ ところで、ひとつお聞きしてもいいですか? 駿介さんが好きなお料理って、どんなものでしょう? 元カノに聞くのは失礼かなとも思ったのですが、どうしても彼に喜んでほしくて……。ぜひ何かいいアドバイスがあれば、教えていただけると助かります。お返事お待ちしていますね~♡】
(はあっ? 何寝ぼけたこと言ってんの、あの泥棒猫! 料理くらい自分で作って試せばいいじゃない! バカなの?)
苛立ちながらも、どう返すべきか考えていると――ふと、ひらめいた。
夏帆はニヤニヤしながら返事を書き始める。
【結城さん、お久しぶりです。新しい方がもう来てるのね。優秀な方みたいでよかった。伊坂さんの好物だけど、前にこう言ってたの。彼、湾岸エリアのビストロ料理の店のシチューが大好きで、“あの味が再現できる女と結婚したい”って。参考までにその店のURLをつけておくわね】
送信ボタンを押すと、夏帆はほくそ笑む。
(ふふっ。あの子、たしか実家暮らしで料理なんて全然しないから、苦戦するわね。それに、駿介はシチューが大嫌いなのよ。彼が好きなのはおふくろ料理系! 真逆を教えてやったわ!)
せめてもの小さな仕返しだった。
ちょうどそのとき、透也がコーヒーとクッキーの載ったトレーを持って、そばにやってきた。
「お待たせ。クッキー美味しそうだよ」
「近所にある洋菓子店で初めて買ってみたんです。わあ、コーヒーのいい香り。これって、“moonbacks coffee”の豆ですか?」
「そう。よく分かったね」
「この香り、好きなんです」
「そうなんだ。さあ、どうぞ」
「いただきます」
一口飲むと、カフェと同じ味がして、夏帆はほっと息をついた。
「美味しい……」
気づけば、部屋の音楽はクラシックに変わっていた。
穏やかな音楽、美味しいコーヒー。
料理の準備も片づけもいらない、夢のような時間。
駿介との付き合いでは、決して味わえなかったものだ。
そう思うと、彼と結婚しなくて正解だったのかもしれない。
夏帆はそばに座る透也をそっと観察した。
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桃下結衣
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今日もジーンズに、オフホワイトのコットンセーターを着ていた。
黒も似合っていたが、白もよく似合う。
何を着ても絵になる、一流の男。
急に緊張が込み上げてきた。
ホスト業の超イケメン、女の扱いに長けたプロ。
女性は、彼のこの優しさに心を奪われてしまうのだ。
そんな彼と二人きりの部屋――急に心臓がドクドクと高鳴る。
そんな夏帆の動揺に気づかないまま、透也が口を開いた。
「夏帆ちゃんは、今度面接がある“受からないかもしれない”って言ってた会社の、どこが気に入ったの?」
現実的な話題に、夏帆の緊張はふっとほどけた。
そんな夏帆には気づかずに、透也が口を開いた。
「勢い……でしょうか? 今まで勤めていた会社とは違う、勢いのようなものを感じました」
「勢いかあ。それだけ?」
「あとは、社内の方たちが生き生きしてるのが伝わってきて」
「ホームページを見て? それだけで分かるの?」
「いえ……。実は先日会社の近くまで行って、リサーチしてきたんです」
「リサーチ?」
「はい。私、こう見えても慎重派なので、何かするときは十分に下調べする癖があって」
「そうなんだ。意外だな」
「よく言われます。思いつきで動くタイプに見えるって」
「俺もそう思ってた。だって急に会社辞めたから」
「ええ。でも、こんなことは初めてなんです」
「そうなんだ。で、その会社の何を見ていいと思ったの?」
「昼休み頃に行ったら、偶然その会社の社員の方たちが社員証をつけて私がいるカフェに入ってきたんです。そのとき、会話が少し耳に入って……」
「どんな話?」
「レジャーの話でした。秋にまとまった休みが交代でもらえるらしくて、三人とも旅行の計画を楽しそうに話していて。普通、社員同士のランチって上司の愚痴とか仕事の不満が多くないですか? でも、その三人は楽しそうな話ばかりで。だから、社員を尊重する素敵な会社なんだろうなって思えたんです」
「なるほどね。それにしても、そこまで調べるなんてすごいな」
「癖なんです。うちは、父親がいない家庭で育ったから、母に迷惑をかけないようにって、つい慎重になる癖がついていて……。でも、いきなり会社を辞めたのは冒険でしたね! 私の初めての冒険……」
「そっか。伊坂の件が逆に夏帆ちゃんの新しい世界を開いたってわけか」
「まあ、そんなところですかね」
夏帆はそういって、ふふっと笑った。
透也は、すでに決めていた。
夏帆の履歴書は申し分なく、学歴も経歴も十分。
それに、転職先をリサーチする行動力――女性の転職組でそこまでやる人は初めてだった。
(うちの会社が求める人材、そして俺がずっと探していた女性は、こういう人間なんだ……。もう決まりだな)
透也は心のなかでつぶやくと、穏やかに微笑んだ。
コメント
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楽しみ楽しみ!
社長として、透也さん一個人として求めてる人が『夏帆ちゃん』なんだね😘 ホストと思い込んでる夏帆ちゃんの隠し隔てのない本音と努力を透也さんに伝えたことで合格を勝ち得て道が開けたね🏆✨ そして逆に元カノ先輩わざわざ連絡してくる紗英👹イライラするしとっとと消えて❗️
「俺の探してた人材」 社長からのお墨付きいただきました🙌 もうこれは採用決定🤗 透也さんの会社、素敵な会社みたいだし、これから、また夏帆ちゃんの人生が良い方向に向かいそうだなぁ✨ あ、その前に面接だね🤭 楽しみです♪