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翌日、沙夜はいよいよ愛しい我が子と対面することができた。
母親より少し遅れて、新生児の息子が同じ病院に転院してきたのだ。
その時が近づくにつれ、沙夜の胸は高鳴っていく。
産婦人科病棟にいる息子に会うため、沙夜は車椅子に乗り、義母・美智子に押してもらいながら向かった。
病棟に着くと、ガラス張りの向こうに何人もの赤ちゃんが並んでいる。
沙夜は食い入るように我が子を探した。
すると、一番手前にブルーの産着を来た赤ちゃんが目に入った。
直感で、それが自分の息子だと分かった。
よく見ると、ベッドには“西園寺ベビー”と書かれた名札がついている。
そのとき、美智子が微笑みながら沙夜に声をかけた。
「ほら見て。手足をバタバタさせて、とっても元気でしょう?」
言われたとおり、息子はニコニコと微笑みながら両手両足を力いっぱい動かしていた。
その姿を見た瞬間、沙夜の目に涙が滲む。
(よかった……。元気で、本当によかった)
胸がいっぱいになりながら、沙夜は我が子をじっと見つめ続けた。
その後、沙夜は新生児室に案内され、初めて息子に初乳を与えた。
産後しばらく時間が経っていたが、まだ効果があるとのことで、看護師の指導のもと授乳を行う。
幸い乳の出はよく、待ちわびていた息子はごくごくと喉を鳴らしながら一生懸命飲んでくれた。
その表情を見つめながら、沙夜はこの上ない幸福感に包まれた。
そんな二人の姿を見て、美智子が言った。
「これからは栄養のあるものをいっぱい食べて、どんどんお乳をあげないとね」
「はい……」
沙夜は、可愛い我が子のために一日でも早く元気になろうと心に決めた。
夕方前、美智子は帰っていった。
昨夜は沙夜の父も見舞いに来て、久しぶりに元気な娘の姿を見て安心したようだった。
毎日通ってくれた義母に礼を述べたあと、沙夜は言った。
「私はもう大丈夫ですから、お母さんも少し休んでください」
「そう? じゃあお言葉に甘えて。何か必要な物があったら電話してね」
「ありがとうございます」
美智子を見送りながら、沙夜はほっと息を吐いた。
医者からは、念のためあと一週間ほど入院してから退院できるだろうと言われている。
その間に少しでも体力を戻さなければ。
そう思い、沙夜はできるだけベッドの上で起き上がるようにし、退院後すぐ日常生活に戻れるよう努めた。
翌日からは、息子に授乳するため、産婦人科病棟へ数時間おきに通った。
会うたびに愛らしさを増す息子を見て、沙夜の胸にはやる気がみなぎる。
この大切な命のためなら、なんだってできる。
母としての想いが、日に日に強く芽生えていった。
その日の夜、面会時間が終わる少し前に司が見舞いに来た。
司と会うのは、意識が戻った日以来だ。
入浴を終えて髪をとかしているとき、ノックの音が響き、沙夜はもしやと思い緊張した。
「どうぞ」
声をかけると、すぐにドアが開き、司が入ってきた。
前回の疲れ果てた姿とは打って変わり、今夜の司はエリート御曹司らしい凛とした雰囲気をまとっている。
仕立てのよいスーツに、パリッとしたシャツ、センスのいいネクタイ。
長身でハンサムな彼にはよく似合い、初めて会った見合いの日を思い出させた。
沙夜は少し照れながら声をかけた。
「来てくださったんですか?」
「ああ。さっき東京に戻った」
「出張、お疲れさまでした」
「うん。だいぶ顔色もよくなったね。安心したよ」
「ご心配おかけしてすみません」
「いや。赤ちゃんには会った?」
「はい。毎日数時間おきに授乳に行ってます。司さんは?」
「今、ギリギリで会えたよ。ほんの少し会えなかっただけなのに、なんだか少し大きくなった気がして驚いたよ」
「ふふ、そうですね」
沙夜は恥ずかしくて目を伏せる。
そして、ふとベビーシューズのことを思い出した。
「あの……可愛いベビーシューズ、ありがとうございます」
司はベッド脇の椅子に腰かけながら言った。
「うん……。たまたまベビー用品店の前を通って衝動的に入っちゃってさ。入ったはいいけど何を買えばいいか分からなくて困ってたら、店の人があれを勧めてくれたんだ」
そのときの照れた司の表情を思い出し、沙夜は微笑んだ。
「そうだったんですね。とても可愛くて素敵です」
「うん」
司は照れたように頷くと、バッグから小さな袋を取り出して沙夜に差し出した。
「え……?」
「出産記念に……気に入るか分からないけど」
「私に……?」
思いがけないプレゼントに、沙夜は驚きを隠せなかった。
袋を見ると、それは婚約指輪と同じブランドのショップバッグだと気づく。
「開けてごらん」
「……はい」
心臓がドキドキと高鳴る。
沙夜はかすかに震える手でバッグから小箱を取り出した。
箱の中にはベルベットのジュエリーケースが入っている。
緊張しながら蓋を開けると、そこにはダイヤモンドのフルエタニティリングが輝いていた。
どのダイヤも上質で、まばゆい光を放っている。
しかも引っ掛かりのないデザインで、子供を抱いても邪魔にならない。
「気に入ってもらえたかな?」
「ありがとうございます。すごく素敵です」
「子供を抱くと、立て爪の指輪は引っかかって危ないって聞いたから、これならどうかなと思って」
沙夜は司の心遣いに胸を打たれた。
「すごく素敵で……嬉しいです」
思わず本音がこぼれた。
「よかったよ。これなら結婚指輪と重ねても綺麗だ」
司はそう言ってジュエリーボックスを受け取り、指輪を取り出すと沙夜の左手薬指にはめた。
そして満足そうにうなずく。
「ほら、似合ってる……」
「ほんと……」
沙夜は、結婚指輪の隣できらきらと輝くダイヤモンドに目を奪われた。
「退院してからのことは心配しなくていい。今来てくれてるお手伝いさんは、ベビーシッターの資格も経験もあるベテランだ。退院後は無理しないように、なるべくのんびりして、体力を戻すといい」
「お気遣いありがとうございます」
そのとき、面会時間の終了を告げる音楽が流れ始めた。
司は何か思い出したように言った。
「おっと、一番大事なことを忘れてたよ」
沙夜が首をかしげると、司はポケットから一枚の紙を取り出し、沙夜に手渡した。
「僕が考えた子供の名前をいくつか書き出しておいた。もしこの中で気に入るものがなければ、沙夜が考えた名前を教えてほしい。まだ日にちはあるし、ゆっくり納得のいく名前を決めよう」
「……分かりました」
沙夜は、子供の名前を自分も選べることに驚いた。
名前は西園寺家の人間で話し合って決められてしまうものだと思っていたからだ。
司は椅子から立ち上がり、穏やかな笑みを浮かべた。
「じゃあ、また時間が取れたら来るよ」
そう言って沙夜の頬を優しく撫で、出口へ向かう。
「あっ、あの!」
思わず声が出た。
何を言おうとしたのか自分でも分からないまま、言葉だけが先に口をついて出てしまった。
「ん? どうした?」
司が振り返る。
沙夜は司に聞きたいことがいくつもあったが、まだ整理できず、どこから話せばいいのか分からなかった。
戸惑っている沙夜を見た司は、再びそばまで来て優しい声で言った。
「話は退院してからでもゆっくりできる。今はまず体力を回復させること。いいね」
「……はい」
「じゃあ、帰るよ。おやすみ!」
「お、おやすみなさい」
司は穏やかな笑顔を向けると、颯爽と病室を出ていった。
その背中を見送りながら、沙夜は静かに息を吐いた。
コメント
13件
沙夜ちゃんが元気になって本当に良かったです😭私も自分の事のように嬉しいです😭赤ちゃんにも会えて授乳も出来て笑顔の沙夜ちゃんが浮かびました😊💕出張先から直ぐに沙夜ちゃんに逢いに来た司さん相思相愛ですね🥰 ベビーシューズのプレゼント🎁も ステキ❣️と思いましたが フルエタニティリングのプレゼントも沙夜ちゃんへの愛が伝わりました🥰 司さんが考えた名前も楽しみですね ( ˶>ᴗ<˶)
沙夜ちゃん、ベビーちゃんに無事に会えて良かった🥹✨ 司さんの気遣いに愛情が伝わってくる💓✨ 司さんもきっと、こんな風に沙夜ちゃんへ愛情を伝えたかったのかな…♡ これから少しずつ、すれ違っていた時間を取り戻していけますように😊🍀 ベビーちゃんのお名前も楽しみです🤗
御出産おめでとうございます、男の子を授かったのですね😊 お祝いを伝えるどころでは無くてやっと言えました、帰って来れて本当良かったです😻