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#怪異
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MaruM
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ドアが開く。
相談者は席に座ると、少し考えてから口を開いた。
「ずっとやろうと思ってることがあるんだ」
蓮司は向かいに座る。
「何?」
「部屋の片付け」
「それは早くやれ」
相談者が笑う。
「そういう話じゃない」
「じゃあ何だ」
「絵を描くこと。昔ちょっと好きだったんだけど、また始めたいと思ってる」
「始めればいい」
「それができない」
蓮司は首を傾げる。
「道具がない?」
「ある」
「時間がない?」
「作ろうと思えば作れる」
「じゃあ何で」
相談者は少し黙った。
「『ちゃんとやりたい』って思うからかもしれない」
「ちゃんと?」
「せっかく始めるなら、毎日続けたいし、上手くなりたいし、中途半端にしたくない」
蓮司は少し考えた。
「始める前から、終わった後のことまで決めてるな」
「そうかも」
「だから一歩目が重い」
相談者は頷いた。
「最初の一枚を描くだけなのに、『これからずっと続けるのか』まで考える」
「それなら面倒になる」
「でも、いつか始めたいんだよ」
「その『いつか』っていつ?」
相談者は黙った。
「分からない」
「便利な言葉だな」
「何で」
「期限がないから」
相談者は少し笑った。
「確かに」
「『来週やる』なら来週になったら逃げられない」
「うん」
「『いつかやる』なら、一生いつかのままでいられる」
相談者は机を見た。
「怖いのかもしれない」
「何が」
「始めてみて、思ってたほど楽しくなかったら」
蓮司は少し間を置いた。
「それは失敗か?」
「……分からない」
「昔好きだったものが今は好きじゃないこともある」
「うん」
「逆もある。やってみたら、昔より好きになるかもしれない」
相談者は黙って聞いている。
「やらない限り、どっちかは分からない」
「そうなんだよな」
少し間が空く。
「でも、始めたら『続けなきゃ』ってなる気がする」
「ならない」
「ならない?」
「今日始めたからって、明日の自分に契約書を渡す必要はない」
相談者は吹き出した。
「契約書」
「『私はこれから毎日絵を描きます』なんて署名しなくていい」
「一枚描いて終わってもいい?」
「いい」
「三日でやめても?」
「いい」
「一年後にまた始めても?」
「いい」
相談者は少し黙った。
「何か、それならできそう」
「始めることと、続けることを一緒に考えるから重くなる」
「最初の日は最初の日だけ考えればいいのか」
「そう」
相談者は立ち上がる。
「帰ったら描いてみる」
蓮司が見る。
「何を?」
「分からない」
「そこからか」
相談者は笑った。
「そこも含めて、やってみる」
ドアが閉まる。
「いつかやろう」と思っていることが、ずっと始められないのは、怠けているからとは限らない。
始めた瞬間に、
「続けなければ」
「上達しなければ」
「無駄にしてはいけない」
と、その先まで一気に背負ってしまうからかもしれない。
最初の一歩に必要なのは、その先の人生まで決めることではない。
コメント
1件
うわあ…このエピソード、めっちゃ刺さったよ…😭💕 「いつかやろう」って思ってること、めっちゃあるあるすぎて泣ける。 特に「始めることと続けることを一緒に考えるから重くなる」って蓮司の言葉、胸にズシッときた…! 私も「最初の一枚描くだけで明日の契約書は要らない」って考え方、すごく楽になれる気がする。 相談者くんの「帰ったら描いてみる」で終わるの、希望があってすごく好き。 ruruhaさんの描く蓮司の優しい距離感、毎回沁みるよ…次も楽しみにしてる!🌸